
ある日突然プロバイダから「発信者情報開示請求に係る意見照会書」が届き、「拒否しても大丈夫なのだろうか」「同意しないとその後どうなるのだろう」と戸惑っている方もいるのではないでしょうか。回答期限は1〜2週間と短く設定されていることが多く、早めの判断が求められます。
意見照会書への回答は任意であり、開示に同意せず断ることも可能です。しかし、不同意の意思を示しても請求者が裁判手続きに進めば、最終的に氏名や住所が開示される可能性があります。開示後には損害賠償請求や刑事告訴に発展するおそれもあるため、回答方針は慎重に決める必要があります。
この記事では、ネット誹謗中傷問題に強い弁護士が、以下の点について解説します。
- 発信者情報開示請求は拒否できるのか
- 不同意の場合のその後の流れと開示までの期間
- 拒否することで生じるデメリット・リスク
- 拒否すべきケースと応じるべきケース
なお、開示請求への対応でお悩みの方は、一人で抱え込まず、この記事をお読みいただいた後、全国どこからでもご利用いただける当事務所の無料相談へご相談ください。
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発信者情報開示請求は拒否できる?意見照会書への対応方法
プロバイダから届く「発信者情報開示請求に係る意見照会書」への回答は任意であり、契約者に同意の強要はできない仕組みです。「同意しない」と回答すれば、拒否の意思表示は可能です。
ただし、任意で拒否したとしても、請求者が裁判手続きに進めば最終的に氏名や住所が開示される可能性があります。まずは発信者情報開示請求とはどのような制度なのか、そして意見照会書への対応方法を確認しておきましょう。
発信者情報開示請求とは
「発信者情報開示請求」とは、インターネット上に匿名で書き込まれた内容によって、自己の権利・利益を侵害されたと主張する者が、その投稿をした発信者を特定して権利侵害の責任を追及できるようにするために設けられている制度です。
具体的には、X(旧Twitter)・Instagramなどのコンテンツプロバイダ(サイト・サービスの運営事業者)や、インターネットサービスプロバイダに対して、発信者の氏名・住所・電話番号などの情報を開示するように求める手続きを指します。
つまり発信者情報開示請求とは、加害者に対して損害賠償請求をしたり、捜査機関に逮捕・起訴を求める刑事告訴をしたりするための準備行為と考えられます。
なお、根拠法であった「プロバイダ責任制限法」は、2025年4月1日より「情報流通プラットフォーム対処法」に名称変更されています。
意見照会書への不同意の回答方法と理由付記
開示請求を受けたプロバイダ(およびXや5ちゃんねるなどのサイト管理者)は、契約者の権利利益が不当に侵害されないよう、原則として開示請求に応じるかどうかについて発信者の意見を聞かなければなりません(情報流通プラットフォーム対処法第6条1項参照)。
この意見聴取の手段が「発信者情報開示請求に係る意見照会書」です。回答期限は通常1週間〜2週間程度と短いため、届いたらすぐに対応を検討する必要があります。
開示を拒否する場合は、書面の「開示に同意しない」にチェックを付けて返送します。その際、以下のような理由を付記しておくことが重要です。
- 身に覚えがない(第三者による侵害行為)
- 請求者個人を特定してなされたものではない(同定可能性がない)
- 名誉やプライバシーなどが侵害されていない(権利侵害がない) など
もっとも、プロバイダは契約者の同意がない限り、任意で発信者情報を開示することはありません。必要のない開示によって発信者から事後的に損害賠償請求を受けるリスクがあるためです。一方、無視して何の回答もしなければ、「開示請求に対する特段の主張を行わない」ものとして扱われてしまうため、できる限り回答書を提出しておくべきでしょう。
意見照会書への具体的な書き方や対応方法については「開示請求の意見照会書が届いたら?回答書と正しい対処法」で詳しく解説しています。
発信者情報開示請求を拒否したらその後どうなる?
任意の発信者情報開示を拒否しても、それで終わるとは限りません。権利侵害が明白な場合、請求者は裁判手続きへと移行し、最終的には裁判所の決定によって個人情報が開示される可能性が高くなります。
ここでは、拒否した場合の具体的な流れと、開示までにかかる期間の目安を解説します。
請求者が裁判手続きで発信者情報の開示を申し立てる
任意の開示請求を拒否された場合、請求者は裁判所を通じた手続きで投稿者の個人情報の開示を申し立てます。
かつては、まずコンテンツプロバイダに対して仮処分(緊急に裁判所の判断を得る手続き)でIPアドレスの開示を求め、その後アクセスプロバイダ(インターネット接続を提供する通信事業者)に対して訴訟で住所・氏名の開示を求めるという2段階の裁判手続きが必要でした。発信者の特定までに1年以上かかることも珍しくありませんでした。
しかし、2022年10月の改正により、現在は1個の非訟手続き(訴訟と比べて簡易な裁判所の手続き)で開示請求が完結できるようになっています。具体的には、コンテンツプロバイダに対して開示命令と提供命令を一括して申し立てます。
裁判所が発信者情報開示命令(裁判所が発信者情報の開示をプロバイダに命じる決定)の申し立てを受けて、コンテンツプロバイダに対し、アクセスプロバイダの名称などを申立人に提供することを命じる(提供命令)仕組みです。これにより、申立人は、コンテンツプロバイダに対する開示命令の発令を待たずに、アクセスプロバイダに対する開示命令の申し立てができるようになりました。
このように手続きが簡略化されたことで、任意の開示を拒否されても、請求者が裁判手続きへ踏み切るハードルは以前より下がっています。
裁判所が開示を命じればプロバイダが情報を開示する
発信者情報開示命令の申し立てが認められると、アクセスプロバイダは裁判所の決定に従って契約者の個人情報を開示する義務を負います。
開示命令は、異議の訴えが提起されなかったとき又は却下されたときは、確定判決と同一の効力を有するため(情報流通プラットフォーム対処法第14条5項参照)、強制執行の際の債務名義(強制執行を行うための法的な根拠となる書面)にもなります。
裁判所から開示決定が出た段階で、個人情報の開示は事実上避けられなくなります。
拒否が成功するケースと開示回避の限界
任意の開示を拒否しても、最終的に情報開示を完全に免れるわけではありません。ただし、権利侵害が認められないケースでは、拒否することで開示を回避できる可能性もあります。
発信者情報開示命令が認められるためには、「権利侵害が明らかであること」が要件とされています(情報流通プラットフォーム対処法第5条1項1号参照)。請求者の主張する権利侵害が法的に成立しないと裁判所が判断すれば、開示請求は退けられます。
たとえば、対象となる個人が特定できない投稿や、社会的評価を低下させるとはいえない曖昧な表現の投稿は、名誉毀損やプライバシー侵害として認められないことがあります。意見照会書の段階で法的な根拠を示して反論することで、請求者がその後の裁判手続きを断念し、結果として拒否が成功するケースもあります。
このように、拒否には「相手のいいなりではなく裁判所による中立な判断を仰げる」という側面があります。ただし、自分では権利侵害にあたらないと考えていても、法的な評価は異なる場合があるため、回答書を提出する前にネットトラブルに詳しい弁護士に相談しておくことをおすすめします。拒否によって開示を回避できる具体的なケースについては「発信者情報開示請求から逃げ切りは可能?6つのケースを解説」もあわせてご確認ください。
拒否後、情報が開示されるまでの期間
意見照会書への回答後、開示までにかかる期間は、同意するか拒否するかで大きく変わります。
- 開示に同意した場合:プロバイダから請求者へ、1か月程度で情報が開示される
- 開示を拒否した場合:請求者が裁判手続きに進むと、判決まで3〜6か月程度かかるのが一般的
もっとも、これらはあくまで目安です。プロバイダの事務処理量によっては、意見照会書が届くまでにすでに数か月以上経過しているケースもあります。また、不同意の回答後、1〜2年が経過しても何の連絡もなければ、請求者が裁判手続きを諦めた可能性も考えられます。
ただし、音沙汰がないからといって安心はできません。プロバイダのアクセスログ保存期間との関係や、ネット掲示板・SNS投稿の特性、請求者側の事情により、開示までの期間にはかなりの幅があるため、回答後も準備を整えておくことが大切です。
発信者情報開示請求を拒否するデメリット・リスク
権利侵害にあたる投稿をしている場合、拒否したまま裁判で開示されると、同意して示談を目指す場合よりも不利な結果になりがちです。具体的には、賠償額の増加・示談の難航・刑事事件化という3つのリスクが現実化しやすくなります。
損害賠償額が増額する可能性がある
任意の開示を拒否されると、請求者は裁判手続きを経て個人情報を入手しなければなりません。その分の手続き費用・弁護士費用が、後の損害賠償額に上乗せされて請求されるのが一般的です。
権利侵害の慰謝料額は、投稿内容の悪質さや被害者の社会的地位などにより幅があります。実務上の目安は次のとおりです。
| 権利侵害の類型 | 慰謝料の目安 |
|---|---|
| 名誉毀損(個人) | 10万円〜50万円程度 |
| 名誉毀損(法人・事業) | 50万円〜100万円程度 |
| 侮辱 | 1万円〜10万円程度 |
| プライバシー侵害 | 10万円〜50万円程度 |
これに加え、開示請求の手続きにかかった弁護士費用も上乗せされます。発信者情報開示請求の弁護士費用は、サイトやプロバイダ、依頼先によって異なりますが、IPアドレス開示と契約者情報開示で合計30万円〜70万円前後がおおよその目安です。実際の裁判では、専門性の高さから弁護士費用の全額に近い金額の賠償を命じた裁判例もあり、本来の慰謝料に手続き費用が積み増しされる結果、最終的な支払額が想定よりも大きく膨らむケースが少なくありません。
また、慰謝料金額そのものも、悪質性が高い投稿や被害が深刻なケースでは100万円を超えることがあります。任意の開示を拒否したことが請求者の被害感情を強め、慰謝料の主張額がさらに引き上げられる可能性にも注意が必要です。
請求者との示談が困難になる
拒否したという事実は、請求者にも伝わります。「反省していない」「責任を回避しようとしている」と受け取られ、その後の示談交渉が難航するおそれがあります。
任意で開示に応じていれば、早期に謝罪して示談金の減額や訴訟回避を目指せたケースでも、拒否されたことで請求者の態度が硬化し、話し合いではなく訴訟提起を選ばれることがあります。訴訟になれば、賠償金に加えて時間的・精神的な負担も大きくなるでしょう。
権利侵害の自覚がある場合、拒否は短期的には開示を遅らせる効果があるかもしれませんが、長期的には自分の選択肢を狭めてしまう側面があります。
刑事事件に発展する可能性がある
発信者情報が開示されると、民事の損害賠償だけでなく、刑事手続きに進む可能性も生じます。
被害者から刑事告訴され、犯行の悪質性や証拠隠滅・逃亡のおそれがあると捜査機関が判断すれば、逮捕・勾留される場合もあります。逮捕された場合、最長23日間にわたって身体拘束を受ける可能性があり、起訴されて有罪判決を受けると前科が残ります。
ネット上の書き込みが問題となる主な犯罪と法定刑は以下のとおりです。
- 名誉毀損罪(刑法第230条1項):3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
- 侮辱罪(刑法第231条):1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料
- 著作権侵害(著作権法第119条1項):10年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金、またはこれらの併科
※2025年6月1日施行の改正刑法により、「懲役」と「禁錮」は「拘禁刑」に一本化されました。
任意の開示を拒否すると、請求者の感情が刺激され、民事の損害賠償請求だけでなく刑事告訴に踏み切られる可能性が高まります。刑事告訴された場合、被害者との示談成立が処分の軽減に大きく影響する要素となるため、できるだけ早期に弁護士に相談することが重要です。誹謗中傷で刑事事件に発展した場合の対応については「誹謗中傷でも前科になる!前科がつかないためにすべきことを解説」もあわせてご確認ください。
【ケース別】発信者情報開示請求を拒否すべきか?
拒否すべきか、それとも素直に応じるべきかは、自分の投稿が権利侵害にあたるかどうかで判断が分かれます。権利侵害の自覚がある場合は同意して示談を目指す、権利侵害がない場合は法的根拠を示して拒否する、というのが基本的な考え方です。
以下、典型的な3つのケースに分けて、取るべき対応を整理します。
権利侵害にあてはまる投稿をしている場合
自分の投稿が相手の権利を侵害していると自覚している場合は、任意の照会に同意したうえで、早期の示談交渉に進むのが得策です。
権利侵害が明白なケースで拒否しても、裁判で開示請求が認められる可能性が高く、結果的に開示は避けられません。むしろ、拒否したことが請求者の被害感情を強めてしまい、賠償金額の増加や示談の難航を招くだけです。
権利侵害にあたる可能性のある投稿の例は次のとおりです。
- 名誉毀損:「Aには前科がある」「Aは不倫している」など、社会的評価を下げる事実の摘示
- 侮辱:「Aは無能だ」「Aは気持ち悪い」など、事実を示さない人格攻撃
- プライバシー侵害:他人の住所・電話番号・病歴・家族関係などを無断で公開する行為
- 肖像権侵害:他人の私的な写真・動画を無断で投稿する行為
これらに該当する自覚がある場合は、開示に同意し、早期に弁護士に依頼して示談交渉を進めることで、賠償額や手続き的負担を抑えることができます。
権利侵害にあてはまらない投稿をしている場合
自分の投稿が相手の権利を侵害していないと考えられる場合は、任意の開示請求を拒否することができます。
たとえば、対象となる個人が特定できない投稿や、社会的評価を下げる内容とは読み取れない曖昧な投稿は、開示請求の要件を満たさない可能性があります。「外国人はバカだ」「関西人は常識がない」といった抽象的な表現にとどまる場合、特定の請求者個人への発信とは認められない可能性があります。
ただし、自分では権利侵害にあたらないと考えていても、法的にどう評価されるかは別問題です。悪意なく書いた投稿でも、思いがけず相手の権利を侵害していたというケースもあります。意見照会書への回答書には、法的根拠を伴った反論を記載する必要があるため、提出前にネットトラブルに詳しい弁護士に内容を確認してもらうのが安全です。
投稿に身に覚えがない場合
指摘されている投稿に全く身に覚えがない場合は、まず家族や同居人に確認してみましょう。同じパソコン・スマートフォン・タブレットを使っていれば、家族が投稿していた可能性もあります。
また、SNSアカウントが乗っ取られた、Wi-Fiを共有していた知人が投稿した、といったケースも考えられます。
もっとも、自分の契約するインターネット環境から発信された投稿である以上、第三者の行為であることを証明できない限り、本人による投稿と推認される可能性が高くなります。
家族・同居人にも該当者がいない場合は、開示に応じたうえで、請求者との交渉で事情を説明し、示談を目指すという選択肢が現実的です。弁護士に依頼すれば、当事者同士が直接顔を合わせることなく交渉を進められます。
発信者情報開示請求への対応でお困りの方へ
発信者情報開示請求は拒否すること自体は可能ですが、権利侵害が認められれば裁判で個人情報が開示され、損害賠償請求や刑事告訴に発展する可能性があります。一方で、権利侵害にあたらない投稿であれば、適切に反論することで開示を回避できる場合もあります。
自分の投稿が法的にどう評価されるか、拒否と同意のどちらが自分にとって有利かを独学で判断するのは難しいでしょう。意見照会書の回答期限は短く、対応が遅れれば理由付記の機会を逃したり、請求者の被害感情を悪化させて示談の選択肢を狭めるおそれもあります。
すでに回答期限が迫っている方、開示後にどう動くべきか分からず不安を抱えている方もいらっしゃるかもしれません。一人で抱え込まず、早めに専門家の助言を得ることが大切です。
当事務所は発信者情報開示請求への対応や請求者との示談交渉、名誉毀損などでの刑事告訴の回避を得意としており、相手方とのやり取りも弁護士が間に入って進めますので、ご家族や職場に知られないよう冷静に対処したい方も安心してご相談いただけます。全国どこからでもご利用いただける無料相談を設けておりますので、まずはお気軽にご連絡ください。
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この記事の監修者
ネット誹謗中傷の削除請求・犯人特定・損害賠償請求に豊富な実績を持つ。掲示板やSNSでの名誉毀損・プライバシー侵害・風評被害に対し、発信者情報開示請求による投稿者の特定から慰謝料請求まで一貫して対応。法人・個人を問わず、ネット上の権利侵害から依頼者を守るために迅速に行動している。

