
①電車内で高校生に土下座させ強要罪が成立した判例
事案の概要
本件は、電車内で靴を脱いで優先席に寝転び電子たばこを吸っていた被告人が、当時17歳の男子高校生(被害者)から注意を受けたことに端を発します。
被告人は注意されたことに立腹し、被害者の胸倉をつかむ、頭を叩くなどの暴行を加えました。さらに畏怖している被害者に対し、「クソガキ。土下座せえや、早く。謝れや」などと怒鳴りつけ、頭を押さえつけるなどの暴行・脅迫を加えて、車内で土下座をさせました。
被告人の暴行は土下座をさせた後も止まらず、土下座している被害者の頭を踏みつけ、顔面を蹴るなどの暴行を継続しました。駅に到着した後もホームに蹴り出し、拳で顔面を何度も殴打するなど、約5分間にわたり一方的な暴行を加えました。
これにより被害者は右頬骨骨折など、全治117日間(約4ヶ月)を要する重傷を負いました。
判決文の抜粋
「被告人は、電車内において、靴を脱いで優先席に仰向けに寝転び電子たばこを吸っていた際、被害者から大声でたばこを止めるように言われたことなどからけんかを売られたと思い立腹して被害者に詰め寄り、被害者が距離を取ろうと被告人の左肩を押したことに藉口して、被害者が先に手を出したので正当防衛だなどと言い募りながら、複数人に止められても殴る蹴るなどの暴行をし続けた上、被害者に対し、土下座して謝るように申し向け、被害者から謝ったら手を出さないかと尋ねられて了承する返答をしたにもかかわらず、被害者が土下座するや否や、その頭部を足で踏み付け、無抵抗の被害者の頭部や顔面を殴る蹴るなどの暴行を加え、駅に到着すると、被害者を電車外に蹴り出して、その腹部付近を複数回足で蹴り、顔面を両手の拳で殴打し、倒れこんでいる被害者の腹部を足で蹴るという暴行を加えた・・・。動機及び経緯に酌量すべき点はなく、態様も非常に悪質である。被害者は判示の重傷を負い、右眼窩下神経障害も認められていたもので、多大な肉体的・精神的苦痛を被っている。」(宇都宮地方裁判所栃木支部令和4年7月19日判決)
弁護士の解説
本件は、被害者に土下座させた行為が強要罪に問われた事件で、強要罪と傷害罪が「科刑上一罪(手段と結果の関係)」として処理されています。結果的に被告人には、懲役2年の実刑判決が下されています。
近年、カスタマーハラスメントやSNSトラブルに関連して「土下座をさせる」行為が問題となっています。本件のように凄惨な暴行を伴うケースでは、傷害罪とあわせて非常に厳しい刑事責任が追及されることになります。傷害罪自体の判例の傾向については傷害罪の有名判例を弁護士が解説もあわせてご確認ください。
②実母に「強要罪・逮捕監禁致死罪」の共同正犯が認められた判例
事案の概要
本件は、母親である被告人とその交際相手Aが、被告人の実子であるB(当時6歳)に対し、日常的に虐待を繰り返していた事案です。
AはBに対し、髪を引っ張る、鍋の中やポリタンクの上に長時間立たせる、嘔吐を強いるなどの暴行・強要を計10回にわたり行いました。さらに、AはBの全身に布団を巻き付け、押し入れの中に放置したことで、Bは低酸素脳症で亡くなりました。
これらの実行行為はすべて交際相手Aによるものでしたが、実母である被告人にも共同正犯が成立するかが争点になりました。
判決文の抜粋
「被告人は、・・・Aが被害者を布団でぐるぐる巻きにするということまでは予期していなかったとしても、Aから、被害者を布団でぐるぐるにしていることを伝えられた時点以降においては、・・・強要行為の「しつけ」の延長として本件逮捕監禁行為が行われていることを被告人は認識し、そうでありながら、Aを制止したり、被害者を助けたりするような行為を長時間にわたってしていないのであるから、被告人とAは、「しつけ」の趣旨として本件逮捕監禁行為をなすという意思を通じ合っていたものといえ、被告人が制止することや助けることをしなかったことは、本件逮捕監禁行為の実現に重要な寄与をしたものと認められる。
そうすると、被告人は、自分の犯罪として、Aと意思を通じ合って、本件逮捕監禁行為の実現に重要な寄与をし、その結果、意図はしないものの、被害者が死亡するに至ったのであるから、本件逮捕監禁致死の共謀共同正犯が成立するものと認められる。」(岡山地方裁判所令和6年9月11日判決)
弁護士の解説
類似の事案で幇助犯と認定されたケースも複数ありますが、本件においては、「Aの虐待を認識するとともに、これを期待して認容して」おり、「行為の実現に重要な寄与をした」と認定されていることがポイントです。
本判例は、児童虐待事案において、たとえ自ら暴力を振るっていなくても、「虐待を容認する情報を与え、保護すべき立場にありながらあえて何もしない」ことが、共同正犯として懲役10年という厳しい実刑判決につながることを示しました。
虐待の「見て見ぬふり」が法律上、実行犯と同等の罪に問われ得るということがわかります。
③正座を強制したことが強要罪に問われた判例
事案の概要
本件は、被告人A(母親)と被告人B(高校の同級生であった女)が共謀し、Aの実子であるC君(当時9〜10歳)に対して行われた虐待事件です。
被告人両名は、Cが正座を崩すと頭を叩くなどの暴行を加え、さらに「動画撮影している」と告げて携帯電話を設置して監視し、長時間にわたる正座を強要しました。Cを学校に行かせず、夜間も正座を続けさせ、眠って倒れると責め立て、両手をタオルで縛ったり口をガムテープで塞ぐこともありました。保護時、C君の足には床ずれが認められるほどの状態でした。
さらに、被告人Aは、正座に集中していないとしてC君に馬乗りになり、首を両手で押さえつけるなどの暴行を加えました。
判決文の抜粋
「被告人両名は、学校に行きたがるCに学校に行くことを禁じて正座を続けさせるなどといった罰を与えればCが言うことを聞くようになるなどという考えから判示約2か月の期間中Cを殆ど学校に行かせずに、長時間正座をすることを強要し、時には夜もCをその状態に置き、Cが足は正座したままで前に突っ伏して眠るとそれを責めたり、きちんと正座をさせ続けるためにCの両手を後ろ手にタオルで縛ったり、Cの口をガムテープで塞ぐなどもし、保護された時にはCの足に褥瘡が認められた程正座を続けさせていた。かかる執拗さも踏まえると、その犯行態様が相当に悪質なものであることは論を待たない。」(名古屋地方裁判所令和6年1月17日判決)
弁護士の解説
本判決のポイントは、以下の理由から、「両名の責任は同程度に重い」と結論付けている点です。
- 実母AはBから離れる時間や場所があり、日常生活を完全に支配されていたわけではない。
- 実母A自身もしつけに悩み、主体的に犯行に加担し続けていた。
- A単独による、危険な「馬乗りでの頸部圧迫」という暴行が存在した。
裁判所は、懲役3年という重い刑を科しつつ、前科がないことや親族による監督環境が整いつつあることを考慮し、執行猶予を付しました。ただし、その猶予期間は法律上最長の「5年」とされ、長期間にわたって社会内での更生を見極めるという厳しい姿勢を示しています。
| 気軽に弁護士に相談しましょう |
|
この記事の監修者
刑事事件の弁護に注力する法律事務所の代表弁護士。逮捕回避・早期釈放・不起訴獲得・示談交渉など、被疑者・被告人の権利を守るための迅速な弁護活動に豊富な実績を持つ。痴漢・盗撮・暴行傷害・薬物事件・性犯罪など幅広い刑事事件に対応し、24時間体制で依頼者とそのご家族を全力でサポートしている。

