- DVで逮捕される基準が知りたい…
- 逮捕された場合どのように対処したらいいのだろう…
この記事では、このような疑問を、刑事事件に強い弁護士が解消していきます。
妻や夫などにDVをしてしまい警察に逮捕されるかご不安な方、前科をつけたくない、会社に知られたくないといった方は最後まで読んでみて下さい。
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目次
DVで逮捕される基準と該当する犯罪は?
DVとはドメスティックバイオレンスの略です。ドメスティックとは「家庭内」、バイオレンスとは「暴力」という意味ですから、ドメスティックバイオレンスとは家庭内暴力のことです。
DVの詳しい定義については、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(以下、DV防止法といいます)に規定されています。すなわち、DV防止法では、
- ①配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの)
- ②①に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動
- ③配偶者から①または②を受けた後に、離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける①または②
をDVと定義しています。
そして、後述するように、①のような刑事罰の対象となる行為はもちろん、②のような刑事罰の対象とはならない可能性のある行為(精神的暴力)もDVと定義している点に注意すべきです。精神的暴力の例としては、「生活費を渡さない」「親族や友人との関りを制限する」「人前で見下した発言をする」「無視する」「誰の金で生活しているんだと言う」「怒鳴りつける」などがあります。
なお、DV防止法には、①、②、③を直接処罰する規定は設けられておらず、もっぱら刑法やその他の法律によって処罰されることとなります。以下では、DVで逮捕される基準と該当する犯罪について解説していきます。
暴行罪
暴行罪(刑法208条)は、被害者に暴行を加えた(身体に対して有形力を行使した)場合に適用される罪です。殴る、蹴る、叩く、腕をつかむ・引っ張る、押し倒す、足払いをする、髪の毛を掴む・引っ張る、熱湯をかける、物を投げつける、胸ぐらをつかむなどが「暴行」にあたります。罰則は「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」です。
傷害罪
傷害罪(刑法204条)は、暴行の結果、被害者に傷害を負わせた場合に適用される罪です。傷害とは捻挫や打撲などのいわゆる「怪我」のみならず、不眠症やうつなどの精神障害も含まれます。もっとも、暴行がなければ傷害が発生しなかったという暴行と傷害との間の因果関係が必要です。怪我や精神障害を負わせるまでの意図は必要なく、暴行を加え、結果的に怪我や精神障害を負わせた場合でも傷害罪に問われることがあります。
罰則は「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。
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傷害致死罪
傷害致死罪(刑法205条)は、暴行または傷害行為(はじめから傷害を負わせる意図のある行為)によって被害者を死亡させた場合に適用される罪です。暴行または傷害行為と死亡との因果関係が必要ですが、死亡という結果を発生させるまでの意図は必要ありません。つまり、「殺すつもりはなかった」という場合でも適用される可能性があるのが傷害致死罪です。
罰則は「3年以上の有期懲役」です。
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殺人罪
一方、殺人罪(刑法199条)は、被害者を殺す意図をもって被害者を死亡させた場合に適用される罪です。傷害致死罪と異なり、被害者を死亡させることになる(認識)が、それでもかまわない(認容)、という故意が必要です。認識の程度は、「死亡させよう(殺してやろう)」という確定的意図までは必要ではなく「死亡するかもしれない」という未必的意図でも足りると解されています。
罰則は「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」です。
脅迫罪
脅迫罪(刑法222条)は、被害者の生命、身体、自由、名誉又は財産に害を加える旨を告げた(害悪を告知した)場合に適用される罪です。「殺すぞ(生命)」「痛い目に遭わせてやる(身体)」「ツイッター(インスタ)で〇〇を公開してやる(名誉)」などが害悪の告知の典型例です。直接言われる場合はもちろん、メールなどを使って間接的に言われる場合でも脅迫にあたります。
罰則は「2年以下の懲役又は30万円以下の罰金」です。
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強要罪
強要罪(刑法223条)は、被害者に暴行または脅迫を加えて義務なきことを行わせたり、権利を妨害した場合に適用される罪です。暴行または脅迫を加えて、長時間にわたり土下座させる、スマホの連絡先・アカウントをすべて消去させる、突然、知らない場所へ行けと命令する、無理な時間帯・タイミングでも無理矢理、メール・電話をさせる、などが強要の典型例です。
罰則は「3年以下の懲役」です。
強制わいせつ罪
強制わいせつ罪(刑法176条)は、被害者に暴行または脅迫を加えてわいせつな行為をした場合に適用される罪です。わいせつな行為とは、キスする、胸を揉む、陰部を触る、膣内に指を挿入するなどが典型例です。強制わいせつ罪や以下の強制性交等罪は被害者の性的自由を保護する罪ですが、夫婦であっても性的自由は保障されています。被害者の意思に反してわいせつな行為を行うと強制わいせつ罪に問われてしまう可能性がありますので注意が必要です。
罰則は「6月以上10年以下の懲役です」。
なお、強制わいせつした結果、被害者に傷害を負わせた、死亡させた場合は強制わいせつ致死傷罪(刑法181条1項:無期又は3年以上の懲役)に問われる可能性があります。
強制性交等罪
強制性交等罪(刑法177条)は、被害者に暴行または脅迫(強制わいせつ罪の暴行または脅迫よりも強度の強いもの)を加えて性交等(性交のほか肛門性交、口腔性交を含む)を行った場合に適用される罪です。前述のとおり、被害者の意思に反して無理矢理、性交等を行った場合は適用される可能性がありますので注意が必要です。
罰則は「5年以上の有期懲役」です。
なお、強制性交等の結果、被害者に傷害を負わせたり死亡させた場合は強制性交等致死傷罪(刑法181条2項:無期又は6年以上の懲役)に問われる可能性があります。
暴力等処罰に関する法律違反
ここまでご紹介してきた罪はすべて「刑法」という法律に規定されていましたが、暴力行為等処罰に関する法律は刑法とは別の法律です。この法律の1条の2では「銃砲又は刀剣類を用いて人の身体を傷害したる者は一年以上十五年以下の懲役に処す」と、凶器を用いて傷害を負わせた場合を処罰すると規定されています。また、1条の3では、常習として傷害罪、暴行罪、脅迫罪、器物損壊罪(刑法261条)の罪を犯し被害者に傷害を負わせた場合は「1年以上15年以下の懲役」、その他の場合では「3か月以上5年以下の懲役」に処すると規定されています。
DV防止法の保護対象となる人は?
DV防止法では、被害者を「配偶者」から暴力(前述したDVと同義)を受けた者、と定義されています(DV防止法1条2項)。
また、配偶者は婚姻関係にある男女(別居中、離婚前の男女を含む)をいいますが、DV防止法では、婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある男女、あるいは、婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあったものの、現在は事実上離婚したと同様の事情に入っている者も配偶者に含むとして(DV防止法1条3項)、配偶者の意味の範囲を広げています。
まとめると、DV防止法の保護の対象となる人は、
- 婚姻関係にある男女
- 別居中、離婚前の男女
- 離婚前からDVを受けており、離婚後も引き続きDVを受ける男女
- 事実婚(内縁関係)にある男女
- 事実婚(内縁関係)にある間からDVを受けており、解消後も引き続きDVを受ける男女
ということになります。
DVでの検挙実態と傾向
警察庁が令和3年3月に公開した「令和2年におけるストーカー事案及び配偶者からの暴力事案等への対応状況について」によると、令和2年の配偶者からの暴力事案等の相談件数は8万2643件で、平成13年から一貫して増加し続けています。
次に、令和2年の刑法犯、特別法犯での検挙件数は令和2年が8702件(令和元年が9090件で統計開始後最も多い)で、平成13年からの増加傾向に歯止めがかかったものの、再び増加に転じる可能性もあります。
検挙犯罪別にいると、暴行罪が「5183件」と最も多く、次に傷害罪の「2626件」、暴力行為等処罰に関する法律違反の「302件」、脅迫罪の「159件」、殺人(未遂)の「110件」と続きます。
DVで逮捕された場合の流れ
DVで逮捕されてから刑事処分を受けるまでの流れは以下のとおりです。
逮捕から送致(送検)
警察に逮捕されると警察署内の留置施設に収容されます。それに前後して、警察官の弁解録取を受けます。弁解録取とは、警察官が逮捕事実について被疑者から言い分を聴く手続きですが、実質は取調べです。
弁解録取を経た後、警察官が身柄拘束を継続する必要がないと判断した場合は被疑者を釈放します。一方、身柄拘束の必要があると判断した場合は、逮捕から48時間以内に、事件と身柄を検察庁へ送致(送検)する手続きをとります。
送致から勾留請求
事件と身柄が検察庁へ送致されると、今度は検察官の弁解録取を受けます。そして、弁解録取を受けた後、検察官が身柄拘束を継続する必要はないと判断した場合は釈放され、必要があると判断した場合は送致から24時間以内に裁判官に対して勾留(※)の請求を行います。
※比較的長期間の身柄拘束のこと。起訴される前の被疑者勾留と起訴された後の被告人勾留にわかれます。被疑者勾留の期間ははじめ10日間、その後やむを得ない事由がある場合はさらに最大10日期間を延長されることがあります。一方、被告人勾留は起訴されると自動的に2ヶ月の勾留期間が決定します。その後、理由がある場合に限り、1か月ごとに期間が更新されます。
勾留とは?要件や身柄拘束される期間、釈放されるための2つの手段
勾留請求から刑事処分
検察官に勾留請求されると、今度は裁判官から話を聴かれます。そして、裁判官が身柄拘束を継続する必要がないと判断した場合は検察官の勾留請求を却下し、必要があると判断した場合は請求を許可され勾留されます。また、勾留請求却下の判断に対して検察官から不服を申し立てられ、認められた場合は勾留されます(不服申立てがない場合は釈放されます)。
一方、勾留請求を許可された場合でも、弁護人が不服申立てて認められれば釈放されます。
釈放された場合でも勾留された場合でも捜査は継続し、最終的には起訴、不起訴の判断がくだされます。
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DVで逮捕された時の対処法
警察官に弁護士との接見を申し出る
DVで逮捕された場合は、まずは警察官に弁護士との接見を申し出ましょう。逮捕前から弁護士に依頼している場合はその弁護士に、依頼していない場合でも知っている弁護士がいる場合はその弁護士に依頼してもよいです(ただし、後者の場合、弁護士の都合ですぐに接見に来てくれない場合があります)。
知っている弁護士がいない場合は当番弁護士との接見を申し出るのも一つの方法です。弁護士を選べない、できるのは1回の接見のみというデメリットはありますが、無料で接見できる点は心強いと思います。
弁護士に謝罪と示談交渉を頼む
罪を認める場合は弁護士に被害者への謝罪と示談交渉を依頼しましょう。
DV事案と一言でいっても、常習性が顕著な悪質な事案から、被害者の一時の感情で警察に被害を訴えたに過ぎない比較的軽微な事案まで様々です。前者の場合は被害感情が厳しく謝罪や示談交渉すら受け付けてくれないかもしれませんが、後者の場合は受け付けてくれる可能性があります。謝罪や示談ができれば、早期釈放、不起訴処分の獲得につながります。
家族との今後を考える
DVにまで発展すると被害者から離婚を申し入れられるかもしれません。あなた自身もこれまでの経過を踏まえ、離婚するのかやり直すのか考える必要があります。
ただし、DVは裁判上の離婚理由になりうるため、あなたがいくら離婚を望まない場合でも、強制的に離婚させられる可能性があります。とはいえ、いきなり離婚裁判を申し立てられるわけではありません。前提として話し合い(協議、調停)の場が設けられますから、離婚したくない場合は、被害者を納得させるだけの再発防止策を考え、実行していくことが求められます。
なお、DVが原因で離婚に至った場合の慰謝料相場はおよそ50万円~300万円程度です。
専門の治療を受ける
DVが長期間にわたるなど根の深いDVの場合は、もはや自分の努力だけではDVを止めることができなくなっている可能性もあります。その場合は、精神科・心療内科でカウンセリング治療や、DV加害者更生プログラムを受けるなど第三者の力を借りるべきです。自分ではその自覚がない方も多いため、まずは今後どうすべきか弁護士などの助言をあおぎましょう。
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