- 風俗トラブルで裁判になることはあるの?
- 裁判になったとしてどんな判決が下されるの?
こういった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
しかし、風俗トラブルが裁判にまで発展するケースはあまり多くはありません。
性風俗店でのトラブルは一般的には周囲に知られたくない事実ですし、風俗店や女の子にとっても”おおごとにするよりもお金で解決すればいい”という考えに至ることが多く、示談で解決することがほとんどであるからです。
とはいえ、裁判例がまったくないわけではありませんので、ここでは風俗トラブルの代表格とも呼べる「本番行為」と「盗撮」の裁判事例をそれぞれ1つずつ紹介します。
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目次
風俗での盗撮に関する民事裁判の事例
風俗店が、盗撮をしたお客に示談金の残金の支払いを求めて裁判を起こしたところ、請求が棄却されたうえに、既にお客から店が受け取ったお金を返金するよう判決が下された事案です(東京地方裁判所 平成29年2月28日判決 事件番号(ワ)36880号)。
なぜ店は返り討ちにあったのか。詳細をみていきましょう。
事案の概要
お客が店舗型風俗店を利用した際に、サービス開始前に店員に預けていた携帯電話のほかにジャケットに隠し持っていた別の携帯を使い盗撮し、それが店に発覚しました。
店の入り口には「盗撮・盗聴は一切禁止です。発見時には迷惑料が発生します」と記載した掲示がありましたが具体的な金額については記載されていませんでした。
店は迷惑料・慰謝料として100万円を請求し、翌日までに20万円、翌日から10日後に残金80万円支払うという内容の示談書を作成しお客に署名押印させました。
お客は盗撮発覚の翌日に店を訪れて20万円を現金で支払いましたが、その後に弁護士に相談し残金80万円の支払いを拒んだため、店が残りの80万円と遅延損害金の支払いを求めて裁判所に提訴しました。
これに対してお客も、示談を交わしたのは店の代表者による強迫によるもので、民法96条1項の強迫取消と公序良俗(民法90条)による無効を主張し、既に支払った20万円を不当利得返還請求権(民法704条)(※)に基づき返還するよう反訴(※)を提起しています。
※反訴とは、同じ裁判の中で、被告が原告を相手として新たに提訴すること。
※不当利得とは、法律上の原因がないのに他人の財産や労務から受けた利益のことです。損失を被った者(損失者)は不当利得を受けた者(受益者)にその不当利得の返還請求できる権利(不当利得返還請求権)があります。
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判決の概要
示談書は原告(風俗店)の強迫により被告(お客)が書かざるを得なかったものであり、強迫取消により示談は無効(初めからなかったこと)である。よって、原告の被告に対する80万円の支払いを求める請求を棄却する。
また、原告は既に受け取った20万円を被告に返還しなくてはならない。
判決の理由
風俗店の代表者は、お客を容易に外に出られない店のスペースに留まらせ、お客が何度も謝罪しているにもかかわらず「金で解決するほかない」と、少なくとも20分ほど執拗に100万円を要求しました。
お客が「100万円は高くないですか」などと主張しましたが、店の代表者は、「払わないなら家に帰さない」と述べ、さらに携帯電話等の所持品も返却しないため、お客は仕方なく示談書の作成に応じました。
また、店の代表者は20万円を即時支払うよう求めたり、示談書とは別に、「不正をしたことを認め100万円を上記口座に支払うことを約束します」といった内容を紙に書かせて指印をさせていました。
こういった事情から、お客に「このままでは帰れない」という恐怖心を抱かせて示談書を作成させたものであるから、代表者の行為は民法96条1項の”強迫”にあたるとしました。
また、店舗入り口の掲示に具体的な迷惑料の金額も記載されておらず損害賠償の予定(民法420条)(※)につき原告被告の間に合意があったとはいえず、示談も強迫取消されていることから、原告が受け取った20万円は法律上の原因がない給付であるため不当利得として返還する義務を負うとしました。
※損害賠償の予定とは、契約の相手方に債務不履行があった場合に、予め損害賠償の金額を定めておいた場合の賠償金額のことです。損害賠償の予定をしておけば、債権者は「損害の発生」や「損害額」を証明しなくても、債務不履行の事実さえ証明すれば予定していた賠償金額を請求できるとされています。
本件の裁判例でいえば、「迷惑料100万円」と掲示していれば、示談は強迫により取り消されて無効になったとしても、損害賠償の予定として店はお客に100万円の請求ができる余地が残されていました。
デリヘル等の風俗で損害賠償請求されたら支払う法的義務はある?
デリヘルでの本番行為に関する刑事裁判の事例
「本番行為をされた」とデリヘル嬢から連絡を受けてホテルに駆けつけた風俗店の男性スタッフをお客が拳と灰皿で殴り顔面骨折させた事件につき、第一審の岡山地方裁判所では傷害罪で懲役2年6ヶ月、執行猶予4年の有罪判決が下りましたが、二審の高裁では無罪判決となった事案です(広島高等裁判所岡山支部 平成30年3月14日判決 事件番号(う)第104号 )
なぜ高裁は無罪判決を下したのか、さっそく詳細を見ていきましょう。
事案の概要
ホテルで性的サービスを受けていた男性客が性交(本番行為)に及んだためデリヘル嬢が店に連絡しました。
駆けつけた店のスタッフがホテルに部屋の鍵の解錠をお願いし、お客の許可なく部屋に入り、お客を怒鳴りつけたうえで謝罪と慰謝料100万円を要求しました。
お客は、報復や慰謝料要求のためにスタッフが自分に危害を加えるのではないかと誤信し、そのスタッフの顔を拳で数回殴ったうえで灰皿でも数回殴るなどして加療36日を要する顔面骨折の傷害を負わせました。
被告(お客)は、原審を不服として控訴し、自分の被害者(風俗店スタッフ)に対する加害行為につき、「誤想防衛」が成立する主張しました。
※急迫不正の侵害に対して自分の身を守るためにやむを得ずに相手に害を与えた場合は「正当防衛」として罰せられることはありません(刑法36条1項)。これに対して「誤想防衛」とは、不正な侵害がない、あるいは、不正侵害はあるが差し迫ったものではないのに、それをあると誤信して反撃行為をすることです。
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判決の概要
被告人(お客)の行為は誤想防衛(盗犯法1条を適用)となり無罪
判決の理由
お客の了承を得ることなく無断でホテルの部屋に押し入った件につき、風俗店スタッフは「本番強要された女の子の救出」を目的として挙げている。
しかし、女の子は「性交された」とは言ったものの、暴力を振るわれたとも無理にされたとも言っていない。
また、女の子の救出が必要と考えていたのであれば、ホテルの従業員に室内の状況を確認してもらうなどの措置をとるのが自然であるはずなのにそのような依頼もなかった。
むしろ、風俗店からホテルの従業員に対して「部屋の鍵を開けないでくれ」と電話まで入れている(各部屋の施錠・解錠がホテルに一括管理されているタイプのラブホテル)。
そのため「女の子の救出目的」という被害者の証言は信用できない。
さらに第一審で、お客は風俗店スタッフがデリヘル嬢を迎えに来ることを認識していたと指摘しているが、承諾なしで部屋に立ち入ることまでは予期していたとは考えられない。
デリヘル嬢が風俗店スタッフの入室を黙示的に承諾していたという指摘についても、ホテルとの客室利用の契約はあくまでも被告人(お客)が締結しているもので、デリヘル嬢はお客の承諾を得て一時的に在室していただけであるから、デリヘル嬢の承諾をもって風俗店スタッフによる部屋への立ち入りが正当化されるものではない。
そして、風俗店スタッフが部屋に立ち入った目的は謝罪と慰謝料をお客に支払わせることであるが、無断入室後にお客に顔を近づけて大声で一方的に怒鳴りつけ100万円の慰謝料を要求している。
この状況を見ていたデリヘル嬢は「ものすごい勢いで一方的に怒鳴っていた」と述べており、また、お客は暴力を振るう前に自分の携帯で110番通報をしようと試みていることからして、お客が自分の身に対する攻撃が差し迫っていると誤信した可能性は否定できない。
風俗店従業員のホテルの部屋への立ち入りやその後の怒鳴り散らす等の態度からして、お客が「自分の身に危険が迫っている」と誤信したことは”驚愕”によるものであり、盗犯法1条2項の誤想防衛が成立する。
まとめ
風俗トラブルにおける民事裁判・刑事裁判の両方につき紹介しましたが、風俗店従業員の誤った対処により慰謝料請求が棄却され、有罪から逆転無罪判決という結果となりました。
店側からすれば腑に落ちない判決と受け止めることもあるかもしれません。しかし一般社会、一般企業において、お客を軟禁状態にして所持品の返却を拒んだり、怒鳴りつけるなどして金銭要求することはまずあり得ません。
たしかに、盗撮も(同意のない)本番行為も女性を深く傷つけるものであり許されるものではありません。
しかし、今回紹介した裁判例における店側の行為は、監禁、強要、住居不法侵入、恐喝などの犯罪が成立する余地があります。
お客に落ち度があることをもって風俗店が違法行為をしても良いとはならないのです。
裁判例のように、違法な行為によって示談を締結させられた、賠償金や罰金を支払わされたような場合は、当法律事務所までお気軽にご相談ください。示談の取消や返金交渉、店側の犯罪行為の刑事告訴など、弁護士が全力を尽くしてアナタを守ります。相談する勇気が解決への第一歩です。
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