盗撮は犯罪です。盗撮罪という罪名は存在しませんが、盗撮行為は原則として、2023年7月13日に施行された「撮影罪」により処罰されます。それ以前の盗撮行為については、迷惑防止条例違反や軽犯罪法違反で処罰されることがあります。さらに、盗撮目的で無断で建物に侵入すれば建造物侵入罪が適用され、盗撮の対象が18歳未満の場合は児童ポルノ禁止法違反となる可能性があります。
罪名 | 刑罰 |
撮影罪 (2013年7月13日以降の盗撮行為に適用) | 3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金 |
迷惑防止条例違反 (2013年7月12日以前の盗撮行為に適用) | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 (東京都の場合) |
軽犯罪法違反 (2013年7月12日以前の盗撮行為に適用) | 拘留または科料 |
建造物侵入罪 | 3年以下の懲役又は10万円以下の罰金 |
児童ポルノ禁止法違反 | 3年以下の懲役または300万円以下の罰金 |
この記事では、盗撮事件に強い弁護士が、次の点について詳しく解説していきます。
- 盗撮は何罪に問われるのか
- 盗撮の刑罰
- 盗撮した場合の対処法
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目次
盗撮は原則として撮影罪に問われます
2023年6月23日に新設され、同年7月13日から施行された「撮影罪」により、盗撮行為は原則として撮影罪で処罰されます。本記事では、撮影罪の定義、該当する行為、罰則について詳しく解説します。
撮影罪とは
撮影罪(正式名称:「性的姿態等撮影罪」)とは、正当な理由がないのに、ひそかに、「性的姿態等」を撮影することで成立する犯罪です。令和5年(2023年)7月13日に施行された性的姿態撮影等処罰法(正式名称:「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」)に規定されています。
この法律が制定されるまで、盗撮行為は迷惑防止条例など各自治体の条例によって処罰されていましたが、地域ごとに罰則や適用範囲が異なるという問題がありました。この点を解消するため、全国一律の基準を設け、盗撮行為を厳しく取り締まることを目的として施行されています。
そのため、令和5年(2023年)7月13日以降に発生した盗撮事件については、性的姿態撮影等処罰法の撮影罪に問われることになります。
撮影罪とは?該当する行為や条例違反との違いをわかりやすく解説
撮影罪に該当する行為
撮影罪で処罰の対象となる行為は次の通りです。
- ①正当な理由なくひそかに性的姿態等を撮影する行為
- ②被害者が拒否できない状態を利用して性的姿態等を撮影する行為
- ③被害者を誤信させて性的姿態等を撮影する行為
- ④13歳未満または13歳以上16歳未満の者の性的姿態等を撮影する行為
①正当な理由なくひそかに性的姿態等を撮影する行為
正当な理由がないのに、ひそかに、「性的姿態等」を撮影する行為は、撮影罪に該当します(性的姿態撮影等処罰法第2条1項1号)。
この「性的姿態等」とは、以下のようなものを指します。
- 人の性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部)
- 人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられているもの)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
- わいせつな行為又は性交等がされている間における人の姿態
さらに、撮影罪については、未遂犯を処罰する規定が設けられています。そのため、最終的に撮影に成功していないとしても、カメラを設置したり、スマホを差し向けたりする行為も撮影未遂罪として処罰対象となります。
具体的に、撮影罪・撮影未遂罪として処罰される行為は、以下のようなものです。
- 電車内で向かいに座る女性のスカート内をひそかにスマホのカメラで撮影した
- 駅のエスカレーターで目の前にいる女性のスカートの中を盗撮する目的で、スマホのカメラを差し向けた
- 勤務先の女子更衣室に小型カメラを設置して盗撮しようとしたが、機材がスムーズに起動せずに結局撮影することができなかった
- 公衆トイレの個室内を撮影しようと隠しカメラを設置したものの、利用者がカメラに気づいて回収してしまった
②被害者が拒否できない状態を利用して性的姿態等を撮影する行為
不同意わいせつ罪(刑法第176条第1項各号)に該当する事由により、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影」した場合も、撮影罪に問われることになります(性的姿態撮影等処罰法第2条1項2号)。
具体的に、次のような状況を利用して被害者の性的姿態等を撮影した場合には、撮影罪が成立することになります。
- 暴行または脅迫:殴る・蹴るなどの暴行や、「殺すぞ・殴るぞ」など害悪の告知により自由な意思決定が困難な状態
- 心身の障害:身体障害、知的障害、発達障害及び精神障害などによって自由な意思決定が困難な状態
- アルコールまたは薬物の影響:飲酒や、薬物の投与・服用によって自由な意思決定が困難な状態
- 睡眠その他の意識不明瞭:眠っていて意識が失われている状態や、意識がもうろうとしているような、睡眠以外の原因で意識がはっきりしない状態
- 同意しない意思を形成、表明または全うするいとまの不存在:撮影されようとしていることに気づいてから、撮影されるまでの間に、自由な意思決定をするための時間的ゆとりがない場合
- 予想と異なる事態との直面に起因する恐怖または驚愕:予想外の又は予想を超える事態に直面したことから、自分の身に危害が加わると考え、極度に不安になったり、強く動揺して平静を失った状態
- 虐待に起因する心理的反応:虐待を受けたことによる、それを通常の出来事として受け入れたり、抵抗しても無駄だと考える心理状態や、虐待を目の当たりにしたことによる、恐怖心を抱いている状態
- 経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮:家庭・会社・学校といった社会生活において、自らやその親族等に不利益が及ぶことを不安に思う状態
③被害者を誤信させて性的姿態等を撮影する行為
以下のように被害者を誤信させて性的姿態等を撮影する行為も、撮影罪に問われることになります(性的姿態撮影等処罰法第2条1項3号)。
- 被害者に行為の性質が性的なものではないとの誤信させるケース
- 特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせるケース
- 上記のように誤信をしていることに乗じて、被害者の性的姿態等を撮影するケース
④13歳未満または13歳以上16歳未満の者の性的姿態等を撮影する行為
正当な理由がないのに、16歳未満の者を撮影した場合(13歳以上16歳未満の場合、行為者が5歳以上年長の者であるときに限られます。)にも、撮影罪に問われることになります。
基本的に、13歳以上16歳未満の子どもについては、性的姿態等を撮影すれば、たとえ被害者が同意していたとしても、犯罪行為となるということです。
これは、16歳未満の未成年は、行為の性的意味を認識する能力や、性的な行為が自分に与える影響について自律的に考えて理解したり、その結果に基づいて相手に対処する能力が十分に備わっているとは言えないからです。
撮影罪の刑罰
撮影罪が成立した場合には、「3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」が科されることになります。
拘禁刑とは、これまでの懲役・禁固を一本化した刑罰として新設されたものです。「拘禁刑は、無期及び有期とし、有期拘禁刑は、1月以上20年以下とする」「拘禁刑は、刑事施設に拘置する」「拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる」とされています。
ただし、2025年に予定されている改正刑法が施行されるまでは、撮影罪には「懲役刑」が科されることになります。
性的姿態撮影等処罰法が新設されたことによって、盗撮行為がこれまでよりも厳罰化されることになりました。
撮影罪以外で問われる可能性のある罪と刑罰
盗撮行為をした場合に、撮影罪以外で問われる可能性のある罪は次の通りです。
- ①迷惑防止条例違反
- ②軽犯罪法違反
- ③建造物侵入罪
- ④児童ポルノ禁止法違反
以下では、それぞれの罪の内容とその刑罰について詳しく解説していきます。
①迷惑防止条例違反
撮影罪が適用されない2023年7月12日以前の盗撮事件には、主に各都道府県が定める迷惑防止条例が適用されます。
東京都の場合、条例では公共の場所や乗り物はもちろん、住居、トイレ、浴場、更衣室など公共の場所以外での盗撮も禁じられています。
盗撮が迷惑防止条例違反に該当した場合、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科されます。常習的に盗撮を行った場合には「2年以下の懲役または100万円以下の罰金」に処罰が引き上げられる場合があります。
ただし、自治体ごとに対象範囲や罰則が異なるため注意が必要です。
②軽犯罪法違反
上記でお伝えした迷惑防止条例は、各自治体によって規定内容や処罰範囲が異なる場合があります。例えば、東京都では公共の場所に加えて、住居やトイレ、更衣室、浴場なども規制対象となっていますが、他の自治体では規制が公共の場所に限定されることもあります。しかし、迷惑防止条例が適用できない場合でも、軽犯罪法違反で処罰される可能性があります。
軽犯罪法は、「正当な理由がなく、他人の住居、浴場、更衣室、便所など、人が通常衣服をつけない場所をひそかにのぞき見する行為」を処罰対象としており、公共の場に限らず、プライバシーが重視される場所での盗撮も規制されています。
軽犯罪法違反に該当した場合、刑罰として、拘留(1日以上30日未満の身柄拘束)または科料(1000円以上1万円未満)が科されます。
③建造物侵入罪
盗撮目的で許可なく建物に侵入した場合、建造物侵入罪に問われることがあります。この犯罪は、他人の所有する建物や敷地に正当な理由なく侵入する行為を処罰するもので、刑罰は「3年以下の懲役または10万円以下の罰金」です。
コンビニやショッピングモール、駅や役所など誰でも自由に出入りできる公共の施設であっても、盗撮目的で立ち入った場合には、管理者の意思に反するものとして、建造物等侵入罪に問われる可能性があります。
実務上は、盗撮のための侵入が特定された場合、迷惑防止条例違反や軽犯罪法違反と併せて適用されることが一般的です。
④児童ポルノ禁止法違反
18歳未満の児童の姿態をひそかに撮影(盗撮)し、それを児童ポルノとして製造する行為は、児童ポルノ禁止法違反となります。この法律では「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」が科されます。
また、児童ポルノ画像や動画を単に所持している場合でも、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科される可能性があります。
盗撮した映像が児童ポルノに該当する場合、迷惑防止条例や撮影罪よりも重い処罰を受けることになります。
盗撮をしてしまった場合の対処法
盗撮をしてしまった人がとるべき対応は次の3つです。
- ①自首する
- ②被害者と示談交渉する
- ③刑事事件に強い弁護士に相談する
①自首する
盗撮事件を起こしてしまった場合には、自首することで逮捕や起訴を回避できる可能性があります。
そもそも、自首とは、自ら行った犯罪行為を捜査機関に申告し、訴追を含む処分を国家機関に委ねる行為を指します。刑法上の自首が成立するためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 自発的に自分の犯罪事実を申告すること
- 自身への刑事処分を求めていること
- 捜査機関に対して申告すること
- 事件の犯人と発覚する前に申告すること
したがって、自首に該当するためには、自己の犯罪事実を捜査機関に対して自発的に申告することが必要で、犯罪事実をことさらに隠すような申告や、自己の責任を否定しようとするような申告がある場合には、自首には当たらないと評価されてしまう可能性があります。
自首は罪を認め反省している意思を示す重要な行為であり、捜査機関や裁判所が逮捕の必要性を見直したり、刑罰の軽減を考慮したりする可能性を高めます。逃亡や証拠隠滅の恐れがないと評価された場合には、逮捕を回避することが期待できます。
②被害者と示談交渉する
盗撮事件を起こしてしまった場合には、被害者と示談をすることが非常に重要となります。
示談が成立すると、被害者と取り交わした示談書の中に「宥恕条項」が設けられる場合があります。宥恕条項とは、刑事上の示談書に盛り込まれる「許す」や「寛大な処分を求める」という趣旨の条項のことをさします。このように、示談書の中に、被害者が加害者を許し刑事処罰を望まないという意思表明がある場合には、捜査機関も被害者の意思を尊重して、逮捕や起訴をしない判断をする可能性が高まります。
仮に、起訴された場合でも、示談が成立していることは、裁判官が量刑を決定する際の重要な要素となります。事件の被害者と示談が成立していることは、被告人にとって有利な情状として考慮され、執行猶予付きの判決や、より軽い刑罰が言い渡される可能性が高まります。
③刑事事件に強い弁護士に相談する
盗撮事件を起こしてしまった場合、刑事事件に強い弁護士に相談することが重要です。
自首を検討している場合、弁護士に同行を依頼することが望ましいです。弁護士に依頼することで、自らの行為がどのような犯罪に該当し、どのような法的問題が生じるかを正確に理解できます。また、弁護士が警察に上申書を提出し、逃亡や証拠隠滅の恐れがないことを説明することで、逮捕を回避できる可能性が高まります。さらに、弁護士に同行を依頼すれば、今後の手続きの流れについても詳しく説明してもらえ、漠然とした不安を解消することができます。
次に、被害者との示談交渉も弁護士に任せることが適切です。
盗撮事件の被害者は、加害者との直接的な接触を避けたいと考えることが一般的です。特に性的被害を受けた場合、加害者との接触が二次的な被害を引き起こす恐れがあります。しかし、弁護士に依頼すれば、捜査機関を通じて被害者の連絡先を取得し、被害者の意向を確認したうえで示談交渉を行うことができます。
弁護士を通じて示談交渉を行うことで、適切な条件で示談が成立する可能性が高まります。また、合意された内容に基づいて示談書を作成し、取り交わしを行った後、弁護士が捜査機関や裁判所に示談完了の報告を行うことができます。
まとめ
盗撮事件を起こしてしまった場合には、性的姿態撮影等処罰法の撮影罪や、各都道府県の迷惑防止条例、軽犯罪法違反の罪に問われる可能性があります。
新法が制定されたことで、近年ますます盗撮事件の刑罰は重くなっているため、犯人として特定された場合には、逮捕される可能性があります。
盗撮事件を起こして警察に逮捕されるのではないかと不安な方や、家族が盗撮事件を起こしてしまったという方は、すぐに刑事事件に強い弁護士に相談するようにしてください。弁護士に依頼することで、自首や示談など本人にとってベストな対応をとることができます。
当事務所では、盗撮事件の逮捕回避、不起訴の獲得を得意としており豊富な実績があります。親身かつ誠実に、弁護士が依頼者を全力で守りますので、盗撮事件を起こしてしまいお困りの方は、ぜひ当事務所の弁護士にご相談ください。
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