
①銀行頭取と保証協会役員の背任罪が否定された判例
事案の概要
本件は、県最大の地方銀行の頭取であった被告人が、県信用保証協会の役員らと共謀し、協会に対して不当な代位弁済を実行させて損害を与えたとして、背任罪の共同正犯に問われた事件です。
事案の背景には、経営破綻した企業に対する銀行の融資(8000万円)がありました。協会はこの融資に対し、当初は「担保物件の登記漏れ」などの保証条件違反を理由に、保証債務の免責(支払拒絶)を銀行に通知していました。しかし、被告人(頭取)が協会の役員に対し、「免責方針を見直して代位弁済に応じるよう」強く要請し、結果として、協会役員らは当初の方針を変更し8000万円の代位弁済を実行しました。
これが銀行の利益を図り協会に損害を与える背任罪にあたるかが争点となりました。
判決文の抜粋
「被告人が協会に対する負担金の拠出に応じないことを利用して代位弁済を強く求めることができたかどうか,については疑問があるといわざるを得ない。・・・本件においては,被告人が協会役員らと共謀の上,協会に対する背任行為を実行したと認定するには,少なからぬ合理的な疑いが残っているといわざるを得ない。・・・そうすると,原判決は,事実を誤認して法律の解釈適用を誤った疑いがあり,破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。」(最高裁判所平成16年9月10日判決)
弁護士の解説
本判決は、取引関係にある「身分なき外部の者(銀行頭取)」が、組織内部の者(協会役員)による背任罪の共犯として処断されるハードルを示した判例です。
背任罪の成立には、「自己もしくは第三者の利益を図る目的(図利目的)」や「本人に損害を加える目的(加害目的)」、そして「任務に背く行為(任務違背)」が必要です。単に自己の通常の利益を追求しただけで背任罪の共犯とされるのでは経済活動に対する不当な制約となります。また、背任罪の共犯となるには、相手方の行為が任務に背くものであることを明確に認識している必要がありますが、本件ではその点に「合理的な疑い」があるとされました。
なお、背任罪の成立要件・時効や横領罪との違いについて詳しくは「背任罪とは?成立要件・時効・横領罪との違いをわかりやすく解説」で解説しています。
②国に35億円超の損害を与えたことが背任罪に問われた判例
事案の概要
本件は、防衛庁(当時)調達実施本部の副本部長であった被告人が、装備品の水増し請求を行っていた私企業に対し、その返還すべき金額を不当に減額することで、計約35億円もの損害を国に与え(背任罪)、退職後にその見返りとして顧問料を受け取った(事後収賄罪)という事案です。
被告人は、関連会社が国に返還すべき過払い金を過少に確定させ、国に巨額の損害を加える一方で、当該企業の利益を図りました。さらに退職後、実態が乏しいにもかかわらず当該企業の関連会社の非常勤顧問に就任し、2年半にわたり合計538万5000円の顧問料を受け取っていました。
判決文の抜粋
「被告人は,調達実施本部在職中に,・・・会社が国に返還すべき金額を過少に確定させるなどの便宜を図り,その会社の利益を図るとともに国に巨額の損害を加えたものであるところ,被告人のこれらの行為は,いずれも・・・任務に背くものであり,背任罪を構成するとともに,職務上不正な行為に当たることが明らかである。・・・被告人に・・・顧問としての実態が全くなかったとはいえないとしても,・・・不正な行為との間に対価関係があるというべきである。・・・事後収賄罪の成立を認めたのは,正当である。」(最高裁判所平成21年3月16日決定)
弁護士の解説
本件は、公務員の在職中の背任行為と、退職後の「天下り」先での報酬が事後収賄にあたることを判断した事例です。
本件では背任罪の明白な「任務違背行為」が認められます。本来、国の債権を厳正に管理すべき立場にありながら、私企業の利益のために意図的に返還額を低く抑えた行為は、国に対する明らかな裏切り行為(任務違背)であり、巨額の損害を生じさせています。さらに、本件では、35億円もの減額という破格の便宜を図った直後に、異例の条件で顧問に迎え入れられており、これが「不正行為への報酬(事後収賄)」であると認定されました。
③質入れした株券を無効化したことが背任罪に問われた判例
事案の概要
本件は、融資の担保として自社株を質入れし、株券を債権者(質権者)に引き渡していた会社の代表取締役(被告人)が、返済が困難になったため、虚偽の申立てを行って株券を無効化し、債権者に損害を与えた事案です。
被告人は、質権者に交付済みの株券を「紛失した」という嘘の理由で裁判所に除権判決(証書を無効とする判決)を申し立て、これを得ることで質権者の手元にある株券を無価値なものにしました。
被告人側は、「株券を渡した時点で、自分の役割は終わっており、債権者のために事務を処理する立場(他人の事務処理者)ではない」として、背任罪の成立を争いました。
判決文の抜粋
「株式を目的とする質権の設定者は,株券を質権者に交付した後であっても,融資金の返済があるまでは,当該株式の担保価値を保全すべき任務を負い,これには,除権判決を得て当該株券を失効させてはならないという不作為を内容とする任務も当然含まれる。そして,この担保価値保全の任務は,他人である質権者のために負うものと解される。・・・質権設定者がその任務に背き,質入れした株券について虚偽の申立てにより除権判決を得て株券を失効させ,質権者に損害を加えた場合には,背任罪が成立するというべきである」(最高裁判所平成15年3月18日決定)
弁護士の解説
現在では株券発行が原則廃止されていますが、「担保提供者は、債務を完済するまで、担保価値を不当に毀損させてはならない」という根本的な法理は、今なおビジネス実務や刑事判例において重要な考え方と言えます。
担保に入れた財産が、不当に消滅したり価値が損なわれたりしないよう管理し続ける義務があり、それは債権者の利益を守るための「他人の事務」にあたります。積極的に財産を減少させる行為だけでなく、当然守るべき信頼を裏切る手続きを行うことも任務違背になります。
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この記事の監修者
刑事事件の弁護に注力する法律事務所の代表弁護士。逮捕回避・早期釈放・不起訴獲得・示談交渉など、被疑者・被告人の権利を守るための迅速な弁護活動に豊富な実績を持つ。痴漢・盗撮・暴行傷害・薬物事件・性犯罪など幅広い刑事事件に対応し、24時間体制で依頼者とそのご家族を全力でサポートしている。

