保護責任者遺棄致死罪の判例を弁護士が解説

①難病の我が子に対する保護責任者遺棄致死罪に関する判例

事案の概要

本件は、乳児重症型先天性ミオパチー(筋力が弱く、運動能力の発達が遅れる難病)を患っていた当時3歳の女児Aが、低栄養に基づく衰弱により死亡した事案です。被告人(実母)は、夫と共謀の上、Aが栄養不良状態に陥っていたにもかかわらず、十分な栄養を与えず、適切な医療措置を受けさせなかったとして、保護責任者遺棄致死罪で起訴されました。

第一審は故意があったとは断定できないとして無罪を言い渡しましたが、第二審は第一審の無罪判決を事実誤認として破棄・差し戻しました。これについて被告人側が上告したのが本判決です。

判決文の抜粋

「保護責任者遺棄罪の実行行為は,同条の文言及び趣旨からすると,「老年者,幼年者,身体障害者又は病者」につきその生存のために特定の保護行為を必要とする状況(要保護状況)が存在することを前提として,その者の「生存に必要な保護」行為として行うことが刑法上期待される特定の行為をしなかったことを意味すると解すべきであり,同条が広く保護行為一般(例えば幼年者の親ならば当然に行っているような監護,育児,介護行為等全般)を行うことを刑法上の義務として求めているものでないことは明らかである。・・・保護責任者遺棄致死罪の故意に関し,Aが本件保護行為を必要とする状態にあることを被告人が認識していたとするには合理的疑いがあるとして被告人を無罪とした第1審判決について,原判決は,論理則,経験則等に照らして不合理な点があることを十分に示したものとは評価することができない。そうすると,第1審判決に事実誤認があるとした原判断には刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があり,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであって,原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。」(最高裁判所平成30年3月19日判決)

弁護士の解説

保護責任者遺棄致死罪が成立するためには、単に保護を怠っただけでなく、対象者が「生命の危険がある要保護状態」にあることを加害者が認識している必要があります。

最高裁は「病気だから筋肉が付きにくい」という前提知識を持つ親の主観において、「病気のせいであって、直ちに命に関わる栄養不足ではない」と誤解していた可能性(合理的疑い)を否定しきれないとした第一審の判断を「不合理ではない」と認めました。

このように、保護責任者遺棄致死罪の成否は、単なる結果の重大性だけでなく、当時の監護者の知識や被害者の個別事情を詳細に検討する必要があります。

行為時にどこまで認識していれば故意があったといえるかは、本件のように成否を分ける重要なポイントです。故意の認定が問題となった他の事例については「未必の故意の有名判例を弁護士が解説」もあわせてご確認ください。

②覚せい剤の影響下にある少女をホテルに放置した保護責任者遺棄致死罪の判例

事案の概要

本件は、暴力団構成員であった被告人が、当時13歳の少女にホテルで覚せい剤を注射したところ、少女が錯乱状態に陥ったにもかかわらず、自身の犯行発覚を恐れて救急車を呼ばずに放置・逃走し、少女を死亡させたという事案です。

本件の争点は、何もしなかった被告人の不作為と少女の死との間に因果関係があると言えるかどうかという点です。

判決文の抜粋

「被害者の女性が被告人らによって注射された覚せい剤により錯乱状態に陥った午前零時半ころの時点において、直ちに被告人が救急医療を要請していれば、同女が年若く(当時一三年)、生命力が旺盛で、特段の疾病がなかったことなどから、十中八九同女の救命が可能であったというのである。そうすると、同女の救命は合理的な疑いを超える程度に確実であったと認められるから、被告人がこのような措置をとることなく漫然同女をホテル客室に放置した行為と午前二時一五分ころから午前四時ころまでの間に同女が同室で覚せい剤による急性心不全のため死亡した結果との間には、刑法上の因果関係があると認めるのが相当である。」(最高裁判所平成元年12月15日決定)

弁護士の解説

本判決は、不作為犯における「因果関係」の立証基準を明確に示したリーディングケースです。通常、刑法における因果関係は「その行為がなければ、結果は発生しなかった」という関係が必要とされます。

不作為が問題となる本件について、最高裁は、被害者が錯乱状態に陥った時点で被告人が救急医療を要請していれば「同女の救命は合理的な疑いを超える程度に確実であったと認められる」と判示し、被告人の不作為と少女の死亡との間の因果関係を肯定しました。

③違法薬物摂取後の放置が保護責任者遺棄・傷害致死罪に問われた判例

事案の概要

本件は、飲食店で、被告人ら3名が知人(Bさん)と共に麻薬であるMDMAを服用した後、Bさんが急性MDMA中毒により激しく暴れるなど、自力での起居動作が不可能な状態に陥りました。

被告人らはBさんを店外へ運び出し、自分たちの管理下に置きましたが、薬物摂取の発覚を恐れて119番通報を行いませんでした。そればかりか、舌を噛むのを防ぐためとしてBさんの口内に「おしぼり2枚」を押し込み、約180メートルにわたって連れ回した末、ビル内に放置しました。結果として、Bさんは押し込まれたおしぼりによる気道閉塞で窒息死しました。

判決文の抜粋

「自傷行為や致死性の心不全などによる死亡を引き起こす可能性もあったから、Bは医学的に見て救急搬送するのが適切な状態にあった。したがって、Bは、①地点で、生存のために医師等による専門的治療を受ける必要がある要保護状態にあった。・・・店外に運び出されたことなどから被告人3名のBに対する関与の度合いは相当強まり、その頃にはBを管理下に置いたといえるため、周囲に他の人がいたことを踏まえても、被告人3名はBに医師等による専門的治療を受けさせる保護義務を負っていたと認められる。」(東京地方裁判所令和7年8月20日判決)

弁護士の解説

本件では、被告人らがBさんを店外へ連れ出したことで、Bさんの生命を左右する立場を事実上「引き受けた」とみなされました。特に、MDMA摂取という真の原因を知っているのが被告人らだけであった点、周囲の助けをはぐらかして遠ざけた点が、法的義務(保護責任)を発生させる決定打とされています。

気道が塞がるほどおしぼりを深く押し込む行為は、救護措置として著しく不相当であるため、客観的な暴行・傷害とみなされ、死の結果について責任を問われることになります(傷害致死罪)。自己保身のために適切な救護(119番通報)を怠り、不適切な措置によって死を招いたとして、被告人3名に対しそれぞれ懲役3年の実刑を言い渡しました。

なお、傷害致死罪の量刑相場や執行猶予がつく可能性については「傷害致死罪の量刑相場は?執行猶予はつく?殺人との違いも解説」で詳しく解説しています。

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この記事の監修者

若井亮 弁護士

若井 亮

代表弁護士

弁護士法人若井綜合法律事務所
東京弁護士会所属(登録番号:47827)

弁護士紹介ページ

刑事事件の弁護に注力する法律事務所の代表弁護士。逮捕回避・早期釈放・不起訴獲得・示談交渉など、被疑者・被告人の権利を守るための迅速な弁護活動に豊富な実績を持つ。痴漢・盗撮・暴行傷害・薬物事件・性犯罪など幅広い刑事事件に対応し、24時間体制で依頼者とそのご家族を全力でサポートしている。

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