
痴漢は親告罪ではありません。迷惑防止条例違反も不同意わいせつ罪も、いずれも非親告罪であり、被害者の告訴がなくても起訴される可能性があります。
痴漢事件を起こしてしまい、「告訴されなければ起訴されないのでは」「示談すれば告訴を取り下げてもらえるのでは」とお考えの方もいるのではないでしょうか。
この記事では、刑事事件に注力する弁護士が、痴漢と親告罪の関係についてわかりやすく解説します。
- 親告罪と非親告罪の違い
- 痴漢に適用される犯罪と刑罰
- 非親告罪でも示談が重要な理由
- 告訴期間と公訴時効の関係
この記事を読むことで、痴漢事件における告訴の意味と、示談交渉の重要性を正しく理解できます。
なお、痴漢事件への対応について早急にご相談されたい方は、この記事をお読みいただいた後、全国どこからでもご利用いただける当事務所の無料相談をお気軽にご利用ください。
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親告罪とは何か
痴漢が親告罪かどうかを理解するためには、まず「親告罪」という用語の意味を正確に把握する必要があります。ここでは、親告罪の定義と非親告罪との違い、告訴と被害届の違いについて解説します。
親告罪の定義と設けられている理由
「親告罪」とは、検察官が公訴を提起(起訴)するときに、被害者の告訴が必要となる犯罪のことです。
告訴とは、被害者が捜査機関に対して犯罪事実を申告し、加害者の処罰を求める意思表示をいいます。親告罪では、この告訴がなければ、いくら捜査が進み加害者が特定されても、刑事裁判にかけることはできません。
親告罪が設けられている理由は、捜査や裁判の過程で、被害者が公にしたくない事実(性的な被害や名誉毀損など)が明らかになることで、かえって被害者の不利益になることを防ぐためです。
また、比較的軽微な犯罪(器物損壊罪など)については、被害者が処罰を望まないのであれば、国家があえて刑罰を科す必要はないと考えられています。
さらに、当事者間の話し合いによる解決が望ましい場合(親族間の窃盗罪など)も親告罪とされています。
親告罪の具体例としては、名誉毀損罪、侮辱罪、器物損壊罪、過失傷害罪などがあります。
親告罪と非親告罪の違い
親告罪と非親告罪の違いは、告訴が起訴の要件となるかどうかという点に尽きます。
| 非親告罪 | 親告罪 | |
| 定義 | 被害者の告訴がなくても起訴できる犯罪 | 被害者の告訴がなければ起訴できない犯罪 |
| 告訴の効力 | 告訴は不要
告訴が取り下げられても起訴される可能性がある |
告訴が不可欠
告訴が取り下げられると起訴できなくなる |
両者の最も大きな違いは、上表の通り、告訴の有無が検察官の起訴判断を拘束するかどうかです。親告罪の場合は、いったん告訴されても、後に被害者が告訴を取り下げれば、加害者は罪に問われることがなくなります。
これに対し、非親告罪の場合は、被害者の告訴がなくても、また告訴が取り下げられたとしても、検察官の判断で捜査が進められ、起訴される可能性が残ります。
告訴と被害届はどう違うのか
「告訴」とは、犯罪の被害者が捜査機関に対して犯罪事実を申告し、さらに加害者の処罰を求める意思表示を含む厳格な手続きです。告訴状が受理されると、捜査機関には捜査義務が生じます(刑事訴訟法第242条)。
一方、「被害届」とは、被害に遭った事実を単に捜査機関に報告するものです。被害届には処罰を求める意思表示は含まれておらず、法的な効力もありません。被害届が提出されたからといって、捜査機関に捜査義務は生じません。
この違いが重要となるのが親告罪です。親告罪では、被害届が提出されただけでは起訴の要件を満たしません。処罰を求める意思表示である「告訴」がなされて初めて起訴が可能になるのです。
痴漢で成立する犯罪は親告罪ではなく非親告罪
結論から言うと、痴漢に関する犯罪は親告罪ではありません。一般的に痴漢事件に適用される迷惑防止条例違反や不同意わいせつ罪は、いずれも非親告罪です。
したがって、被害者の告訴がなくても、検察官の判断で起訴される可能性があることを意味します。以下では、それぞれの犯罪について詳しく解説します。
迷惑防止条例違反(非親告罪)
迷惑防止条例とは、各都道府県が独自に定めている条例で、痴漢や盗撮、つきまといなどの迷惑行為を規制しています。
痴漢行為のうち、電車内で衣服の上から触るなど、悪質性の程度が比較的軽微な態様の場合に適用される傾向にあります。この迷惑防止条例違反は、刑法改正の前後にかかわらず非親告罪です。
そのため、被害者の告訴がなくても、警察が捜査を行い、検察官が起訴・不起訴を判断します。
刑罰は都道府県によって異なりますが、例えば東京都の場合、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されます。さらに、常習性があると認められる場合には、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に加重されます。
※拘禁刑とは、2025年6月1日に施行された改正刑法により、従来の懲役刑と禁錮刑が一本化された刑罰のことです。
罰金刑が設けられているため、正式起訴ではなく略式命令による罰金処分となる可能性もありますが、いずれにしても前科が付くことになります。
不同意わいせつ罪(非親告罪)
不同意わいせつ罪とは、被害者の同意なく、または意思表示が困難な状況でわいせつな行為をした場合に成立する刑法上の犯罪です(刑法第176条)。
痴漢行為のうち、下着の中に手を入れる、無理に抱きつく、不意打ち的に身体を触るなど、比較的悪質な態様の場合に適用される可能性があります。どのような痴漢行為で不同意わいせつ罪が成立するかについては「痴漢は不同意わいせつ?迷惑防止条例違反?両罪の違いを解説」で詳しく解説しています。
この不同意わいせつ罪の前身である強制わいせつ罪は、かつては親告罪でしたが、被害者の精神的負担の大きさや、加害者からの報復を恐れた被害者の泣き寝入りを防ぐ目的で、2017年の刑法改正により非親告罪に変更されました。
さらに、2023年7月の刑法改正により、強制わいせつ罪は「不同意わいせつ罪」に名称が変更されました。名称は変わりましたが、非親告罪である点は維持されています。
不同意わいせつ罪に問われた場合には、6か月以上10年以下の拘禁刑が科され、罰金刑がなく、迷惑防止条例違反よりも極めて重い刑罰が科されます。
同罪が適用される場合、早期の示談と弁護活動がなければ、実刑判決となるリスクが非常に高くなります。
痴漢が非親告罪であることの意味
痴漢が非親告罪であることは、加害者にとって重要な意味を持ちます。告訴がなくても起訴される可能性があり、時効も長期にわたるため、事件後も長期間にわたってリスクが継続します。
- ①被害者の告訴がなくても起訴される可能性がある
- ②告訴が取り下げられても起訴される可能性がある
- ③告訴期間の制限がなく公訴時効も長い
①被害者の告訴がなくても起訴される可能性がある
痴漢に関する犯罪は非親告罪であるため、被害者が告訴(処罰を求める意思表示)をしなくても、検察官の判断で起訴される可能性があります。
目撃者の証言や防犯カメラの映像、現場で確保された際の状況などの証拠が十分に揃っていれば、捜査機関は被害者の告訴を待たずに独自に捜査を進めることができるのです。現行犯逮捕された場合はもちろん、証拠に基づいて後日逮捕される可能性もあります。逮捕された場合の流れについては「痴漢で逮捕された時の拘束期間と期間を短くするための対処法」をご参照ください。
被害者の意向に関わらず刑事事件となる可能性があるため、痴漢に関しては「被害者が告訴しなければ大丈夫だろう」という考えは誤りです。
②告訴が取り下げられても起訴される可能性がある
親告罪であれば、被害者との示談が成立し、告訴が取り下げられれば、検察官は起訴できなくなり事件は終了します。
しかし、非親告罪は、たとえ告訴が取り下げられたとしても、逮捕・起訴される可能性が残ります。
検察官は、痴漢の悪質性や犯行態様、前科の有無などを総合的に判断し、「犯人に刑罰を科すべき」と判断すれば、被害者が告訴を取り下げたとしても起訴に至ることがあり得ます。
ただし、示談が成立し、告訴が取り下げられたという事実は、被害者の処罰感情が小さくなったと見なされ、不起訴(起訴猶予)の可能性を高める重要な情状となります。
③告訴期間の制限がなく公訴時効も長い
親告罪には、原則として「犯人を知った日から6か月以内」という告訴期間の制限がありますが、非親告罪にはこのような制限がありません。
被害者はいつでも被害を申告できますし、捜査機関も独自に捜査を開始できます。さらに、公訴時効も迷惑防止条例違反で3年、不同意わいせつ罪で12年と長期にわたります。
したがって、「時間がたてば警察も動かないだろう」、「時効まで逃げきれば大丈夫」という考えは非常に危険です。
痴漢事件を起こしてしまった、または容疑をかけられている場合は、公訴時効が成立するまで逮捕・起訴のリスクが継続するため、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
痴漢が非親告罪でも示談すべき理由
痴漢が非親告罪である以上、示談をしても告訴取り下げによる確実な不起訴は期待できません。しかし、示談には依然として大きな意味があります。
- ①法務省も被害者の意思を尊重するよう通達を出している
- ②示談成立は不起訴処分につながる重要な要素
- ③起訴された場合も量刑に影響する
①法務省も被害者の意思を尊重するよう通達を出している
痴漢事件が非親告罪になった背景には、被害者保護の強化という目的があります。
しかし、法律改正後も実務上、被害者の意思は非常に重視されています。実際、2017年の刑法改正時、法務省は「性犯罪については被害者のプライバシー等の保護が特に重要であり、事件の処分等に当たっても被害者の心情に配慮することが必要である」、「事件の処分に当たって被害者の意思を丁寧に確認するなど被害者の心情に適切に配慮する必要がある」という趣旨の通達を出しています。
そのため、検察官は、法改正後も起訴・不起訴を判断する際、被害者の処罰感情や被害の回復状況を十分に考慮すると考えられます。
したがって、示談が成立し、処罰を望まない意思が確認できれば、起訴を見送るという判断も十分にあり得ます。
②示談成立は不起訴処分につながる重要な要素
示談交渉が成功し、被害者への謝罪と賠償が完了していれば、被害者の処罰感情や違法性が減少したと評価されます。これは、「被害者への被害が回復され、法益侵害が一定程度回復された」という有利な情状となります。
その結果、検察官が不起訴処分(起訴猶予)にする可能性が高まります。
特に、前科前歴がなく、行為態様が比較的悪質でない初犯の場合、示談成立は不起訴処分を獲得するための最も決定的な要素となります。痴漢事件における示談金の相場や示談の具体的な流れについては「不同意わいせつ(旧強制わいせつ)の示談金相場や示談の進め方」で解説しています。
不起訴処分になれば、刑事裁判を受けることはなく、前科もつきません。仕事や家庭への影響を最小限に抑え、家族に迷惑をかけることなく通常の社会生活を早期に再開するためには、示談の成立が不可欠です。
③起訴された場合も量刑に影響する
仮に、起訴されて刑事裁判に移行したとしても、示談成立の事実は、裁判所の量刑判断において有利な情状となります。
裁判官は判決を下す際、一般情状として、「被害者への謝罪と損害賠償がなされているか」という点を考慮します。示談が成立していれば、被害回復と加害者の反省の態度が明確に示されていると評価され、実刑相当の事案であっても執行猶予がつく可能性が高まります。
そのため、起訴されたからといって示談交渉を諦めてはいけません。判決が出るまで示談成立を目指し交渉を継続することが、最終的な刑の減軽や早期の社会復帰のために欠かせません。
痴漢事件を起こしてしまった方・容疑をかけられている方へ
痴漢は親告罪ではないため、被害者の告訴がなくても起訴される可能性があります。しかし、示談が成立すれば不起訴処分を獲得できる可能性が高まり、起訴された場合でも量刑において有利な情状として考慮されます。
弁護士に依頼せずに示談交渉を行うことは困難です。被害者は加害者本人との直接のやり取りを拒否することが多く、また、適切な条件での示談成立には法的な知識と経験が必要となるためです。
警察から連絡が来ている場合や、被害者から「被害届を出す」「訴える」と言われている場合、あるいは痴漢事件で現行犯逮捕されてしまった場合には、早期に弁護士に依頼することで、逮捕の回避、勾留阻止による早期の身柄釈放、不起訴処分の獲得に向けた弁護活動を開始することができます。また、取調べへの対応についても弁護士からアドバイスを受けられます。
当事務所では、刑事弁護を専門分野として痴漢事件を含む多くの性犯罪事件を取り扱っており、示談交渉による不起訴処分の獲得について豊富な実績があります。全国どこからでも無料でご相談いただけますので、痴漢事件でお困りの方は、当事務所までご連絡ください。
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この記事の監修者
刑事事件の弁護に注力する法律事務所の代表弁護士。逮捕回避・早期釈放・不起訴獲得・示談交渉など、被疑者・被告人の権利を守るための迅速な弁護活動に豊富な実績を持つ。痴漢・盗撮・暴行傷害・薬物事件・性犯罪など幅広い刑事事件に対応し、24時間体制で依頼者とそのご家族を全力でサポートしている。

