「訴えるぞ」が脅迫罪にあたるとした判例
事案の概要
被告人が、Aらにより詐欺罪の告訴を受けて不起訴になりました。その後被告人はAらに対して「自分を告訴したことは虚偽告訴罪に当たる行為でああるから懲役刑に処せられるべきだ」、「不実の告訴を受けたがために名誉を毀損され損害が生じているため虚偽告訴罪で告訴する」などと記載された趣旨の書面を送付しました。
これに対して原審は、告訴するか否かは被害者の自由であるので、告訴権のある者の通告は犯罪とはならないとして無罪を言い渡しています。これに対して検察側が上告したのが本件です。
判例分抜粋
この事案に対して裁判所は、「誣告ヲ受ケタル者カ眞ニ誣告罪ノ告訴ヲ爲ス意思ナキニ拘ハラス誣告者ヲ畏怖セシメル目的ヲ以テ之ニ對シ該告訴ヲ爲ス可キ旨ノ通告ヲ爲シタリトスレハ固ヨリ權利實行ノ範囲ヲ超脱シタル行為ナルヲ以テ脅迫ノ罪ヲ構成ス可キハ疑ヲ容レス」と判示して、告訴することが脅迫罪に該当する可能性があることを示しています(大審院大正3年12 月1日)。
弁護士の解説
本判決は要するに、虚偽告訴を受けた者が、直ちに虚偽告訴罪の告訴をする意思がないのに、虚偽告訴をした者を畏怖させる目的でその告訴をする旨の通知をした場合は、権利実行の範囲を超えたものであるため、脅迫罪を構成すると判断したものです。
他方で本件の具体的判断としては、虚偽告訴の事実は認定されておらず、被告人の告訴権の有無についても明確には判断されていません。本件の事実関係のもとにおいては、被告人に告訴権が認められるのか否かは明確ではなかったことが窺えます。本件ではAらに詐欺罪で告訴されただけであり虚偽告訴を受けたとまでは認定されていません(Aらに故意がなかったケースなどが想定できます)。
そのうえで、被告人は虚偽告訴されたと確信しているので、故意はなく権利の実行として犯罪とはならないと判断されています。
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