援助交際で脅迫された被害者の多くが警察に助けを求められないでいます。
ではなぜ、脅されているもかかわらず警察に相談にすら行けないのでしょうか?具体的にどんなトラブルに巻き込まれるの?と思われた方も多いと思います。
そこでここでは、援助交際でどのような脅迫トラブルに巻き込まれることがあるのか、また、警察に駆け込むことができない理由について、多くの事案を解決してきた弁護士がわかりやすく解説していきます。
読むことで、これから援助交際をしようと考えている方には予防的な知識として、既に問題が生じてしまっている方は今後どう対処すべきかの判断材料として役に立つ情報となるでしょう。
法律的なお話も、わかりやすく理解しやすいように説明していますので、5分程度で読めると思います。
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目次
1. 援助交際で遭遇する3大脅迫トラブル
援助交際をきっかけに脅迫トラブルに遭ってしまうケースは、大きく分けて以下の3つのケースです。それぞれ見ていきましょう。
1-1. 「これは児童買春だ。警察に行くぞ」と脅迫される
出会い系サイトやSNSを通じて援助交際として性行為をしたところ、「児童買春で警察に行かれたくなかったら金を払え」などといって脅迫され、お金を払わされるトラブルが多くなっています。
ネット上では援助交際のことを、「円光」「サポ」「円(\)」などの隠語で呼び、未成年の女子の利用者も少なからずいます。たしかに、最初から18歳未満の児童であることを知りながら援助交際をする人もいますがケースとしては稀です。
女の子から児童ではないと聞いていたり、話の流れからそう思い込んでいたところ、あとから「じつは18歳未満」などと打ち明けられ、脅迫されるケースのほうが圧倒的に多いのが実情です。
しかし、被害者になる成人男性側も、援助交際をしているという後ろめたい気持ちがあるため、なかなか被害が顕在化せず、延々と金をむしりとられるケースも少なくありません。
1-2. 援助交際狩りのターゲットにされる
援助交際をした相手の女性が男性とグルになり、援助交際の相手を脅迫したり暴行したりする「援助交際狩り」も、頻発する脅迫トラブル被害事例のひとつです。
「今すぐ会えます」などと掲示板に書き込みをし、カモとなる男性が引っかかったら「これからすぐ会いましょう」などといって誘い出します。大抵は、人気のない公園などを待ち合わせ場所に指定。
男性が来たら「電話がかかってきたからちょっと待ってて」などといってその場を離れます。そして男性が1人になったところに、複数人の男が現れて、「俺の女に手を出すつもりか」などと言って脅迫してきます。
1-3. 第三者の男性が出てくる美人局
美人局の被害も典型的な援助交際での脅迫トラブルのひとつです。援助交際を目的に女性と会い、性行為を行なった後で、「旦那にバレた」などと女性から連絡があったり、そこから夫と名乗る男性が介入してきます。
女性と会っている場所に直接居合わせることもあります。そして「うちの妻に手を出したな」「お前の会社に全部バラしてやる」などとまくし立て、穏便に済ませてほしいなら金を払えと迫ってきます。
相手の行為は恐喝罪という犯罪行為となりますが、男性も援助交際をしているという罪悪感や、バラされたら大変なことになるという焦りから、夫と名乗る男性の言うままにお金を払ってしまうケースが多いのです。
援助交際に関連した法律
援助交際の相手やその関係者が脅迫してくる場合、脅しのネタとして利用されるのは、”被害者の法律違反”であることがほとんどです。
そこでここでは、援助交際をした人がどのような法律に抵触している可能性があるのかをわかりやすく解説します。
出会い系サイト規制法
出会い系サイト規制法は、利用者間でのトラブルが多発し、特に未成年の児童(18歳未満)が犯罪に巻き込まれる事件が多いことを背景に制定されました。主に未成年の児童を保護の対象とし、出会い系サイトの業者やプロバイダ、成人の利用者を規制する法律となっています。
ここでは利用者に対する規制について紹介します。
利用者に対する規制
出会い系サイト規制法では、利用者に対しては、以下の内容について規制しています。
- 児童を相手に交際や性交渉などを求める書き込みの禁止
- 有償で児童に対して性交渉や交際の相手になるように求める書き込みの禁止
- 児童の出会い系サイトの利用を禁止
このように、児童に対して、援助交際を誘う書き込み(売春を誘引する書き込み)のほか、お金の話には触れずに単に性行為を誘う書き込みも罰せられます。
なお、実際に児童と性行為をしたかだどうかに関わらず、違反した場合は100万円以下の罰金刑が科されます(同法33条)
児童ポルノ禁止法
児童(18歳未満の子供)は性的判断能力が未成熟であり、大人から性欲の対象にされて心身ともに傷つく可能性があります。
そのため、18歳未満の児童を対象とした「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」が制定され、必要に応じて改正を繰り返しています。
この法律は、通称、「児童ポルノ禁止(規制)法」と呼ばれていますが、ポルノだけではなく買春行為も禁止しています。具体的にみていきましょう。
児童買春
18歳未満の児童に対する買春について、本法律で規制されています。この法律で規制される以前は、児童福祉法や淫行条例などによって規制されていました。
- 対価を払い、または払うことを約束して、児童と性行為や性交に類似する行為を行う
- 自分の性的好奇心を満たす目的で児童の性器などを触ったり、または児童に触らせること
この法律はまさに援助交際を規制する目的で制定されたものです。対価とはお金のほかに物でもよく、プレゼントをあげたり、飲食代を奢って性行為にもちこんだ場合も同法が適用されます。
なお、児童買春をした場合、5年以下の懲役、または300万円以下の罰金という刑が科されます(同法4条)。
児童ポルノ
18歳未満の児童との性行為、他人の性器を触っている様子、裸になっている様子、こういった姿態(児童の姿)が収められた動画や画像が「児童ポルノ」にあたります。
これらをインターネットに流したり、他人にデータを販売したり、撮影したり(製造)、所持するといった行為をすると児童ポルノという犯罪にあたります。
つまり、援助交際の相手に性行為や裸の写真や動画を撮影させてもらったり、盗撮したりすれば、”製造”したことになります。
なお、製造した場合は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金で処罰されます。
青少年健全育成条例(淫行条例)
淫行条例とも呼ばれる青少年健全育成条例は、国ではなく地方公共団体で定められた条例です。そのため、各地方公共団体によって条例の内容が異なることもあります。その内容の多くは、青少年(18歳未満)とみだらな性交やそれに類似する行為を行なったことを規制しています。
淫行条例の一番の特徴は、条例違反となる要件に「対価の供与」が入っていないことです。すなわち、間にお金を介さずに単に児童と性行為などをした場合でも、条例違反にはなるということです。
例えば、援助交際の相手を探していたところ、無料で性行為に応じてくれる女の子が見つかって行為に及んだとしても、18歳未満であれば淫行条例に抵触します。そもそも無料で身体を提供する児童がいた時点で、「援交狩りではないのか。男性が登場して脅迫されるのではないか」と疑ってかかるべきです。
児童福祉法
児童福祉法の歴史は古く、1940年代の後半、戦後には制定されていました。児童福祉法は、児童を保護するためにいろいろな行為を禁じていますが、特に問題となるのは児童淫行罪についてです。
児童福祉法34条1項6号では「児童に淫行させる行為」を禁じていますが、この「淫行させる」は、児童と第三者を淫行させることのほかに、自分と淫行させることも含むと解されています。児童買春や淫行条例との違いについてはこのあと解説します。
なお、児童淫行罪が成立すると、10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又は懲役と罰金の併科となります(同法60条1項)。児童買春や淫行条例よりも遥かに重い罰則となります。
児童買春・淫行条例・児童福祉の違い
児童買春と淫行条例、児童福祉法は、それぞれ児童の性行為やそれに類似する行為について規制しており、違いがわかりにくいものです。実際の現場でも、逮捕当初の罪名と捜査を進めた結果成立する罪名が変わるということもあります。これらの犯罪について、どのような違いがあるのかを解説します。
利益の供与があったかどうか
最も大きな違いは、性行為などに対して「対価の供与」があるかという点です。児童買春にあたる場合は、対価の供与が必要ですが、児童淫行罪や淫行条例違反は、対価の供与がなくても成立します。
援助交際は3つの法律に抵触する可能性がありますが、この3つの犯罪は同時に成立するわけではなく、より重い罪である児童買春が成立すれば、淫行条例違反で罰せられることはありません。では、児童淫行罪についてはどうでしょうか。以下で解説します。
心理的に児童に影響を及ぼしているか
児童福祉法の児童淫行罪が成立するには、判例では、行為者と児童との間に、親と子供、教師と生徒、あるいはそれに準ずる関係があって、それが児童の心理に作用して性行為等をさせられる状況が必要となります。
つまり、両者の間に対等な関係がなく、児童に対してある程度支配的な立場にある者が性行為等をすれば、児童淫行罪が成立するのです。
親子間のケースはあまり耳に入ってこないと思いますが、教師と生徒との間で性行為が行われてニュースになることは少なくありません。
教師が生徒に対価を支払った(つまりは援助交際)か否かに拘わらず、生徒と性行為をすれば児童淫行罪という児童買春よりも重い罰則(10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又は懲役と罰金の併科)で処罰されることになるのです。
一般的な援助交際は、ネット上で知り合った見知らぬ人との間であることがほとんどですので、児童淫行罪が適用されるケースは考えにくいでしょう。
警察に相談したり被害届を出せない理由
援助交際はスマホやネットで相手とつながって気軽に始められることから、ついはまってしまう人が少なくありません。
女性の中には、単純に売春行為でお金を稼ぐことが目的の人もいますが、そうではなく、引っかかった男性を脅迫して長期的に金銭をむしり取ろうと考えている悪質な女性もいます。
ですが、援助交際で脅迫されたとき、多くの成人男性は警察に相談したり被害届を提出することを選択しません。
それはなぜでしょうか。ここではその理由について詳しく説明したいと思います。
マスコミに実名報道される危険性が高い
援助交際の相手女性は18歳以下の未成年であるケースが多く、お金を払って性行為やそれに類似した行為をすることは児童買春にあたり、犯罪となります。
性行為に至らなかった場合でも、刑罰は「5年以下の懲役または300万円以下の罰金」と、かなり重い刑が設定されており、もし逮捕されれば、マスコミによって実名報道され、新たなトラブルに巻き込まれる可能性が極めて高まります。
また、援助交際や児童買春の加害者は「未成年を相手に卑劣な行為をした男」という社会的イメージが強く、もしも実名報道されてしまえば、社会的に失うものは計り知れません。
実際に芸能人をはじめ、多くの人が「未成年と性行為をした」として実名で報道され、社会から抹殺されています。「実は脅迫の被害に遭っていた」という事実が、援助交際をしたという事態の大きさにかき消えてしまうこともあるのです。
会社をクビになるという二次的トラブル
もしも児童買春や強制わいせつなどの罪で逮捕されてしまったら、最大で23日間勾留されてしまいます。その間はもちろん日常生活を送ることはできませんので、会社も休まなければなりません。
援助交際で脅迫被害に遭っていたとしても「児童買春で警察に捕まったから会社に行けない」という事態が起きてしまうのです。普通に働いている間はあまり目にする機会がありませんが、会社の就業規則には「このような場合は従業員を解雇できる」という解雇事由について明記されています。
そこでは必ずと言っていいほど、刑事事件トラブルに関連した条項が明記されています。その文言は会社によってさまざまですが、「刑事事件をおこしたとき」「有罪判決が確定したとき」「起訴されたとき」「逮捕されたとき」などの定めがあります。
会社は、援助交際をして逮捕されてしまった従業員を適法に解雇することができるのです。単なる解雇ならば家族も納得してくれるかもしれませんが、援助交際トラブルが原因で会社をクビになったとなると、それでもサポートしようとしてくれる家族は少ないかもしれません。
参考:従業員が逮捕されてしまった場合、それを理由にクビにすることは可能か
児童買春の罪自体が重い
先ほども記載したとおり、援助交際をして児童買春で有罪になったとすると、5年以下の懲役か300万円以下の罰金と、刑罰がかなり重いのが特徴です。
性行為をしただけでなく、体を触ったというような性行為に準じる行為をしただけでも「児童買春」にあたります。
また、一般的に脅迫や暴行などの被害に遭った被害者に対しては、世間は優しいものです。しかし、援助交際の挙句に脅迫トラブルに遭い、多額のお金を相手に脅し取られたとしても、世間は「援助交際をする方が悪い」「同情の余地がない」という意見に傾きがちです。
脅迫という被害を受けているにも関わらず、加害者としての扱いも受けかねないのが援助交際の脅迫トラブルです。
「18歳未満と知らなかった」では済まされない
援助交際をして警察に逮捕され、実名報道されてさらに大きなトラブルになっているケースをテレビや新聞などで見かけることがありますが、中には「18歳以下だと知らなかった」とコメントをしている人もいます。
ある行為が犯罪として成立するためには、客観的な行為があるだけでは足りず、故意と呼ばれる「犯罪を行う意思」が必要です。とすれば、相手が18歳だと知らなかったなら、児童買春している故意がないので逮捕されること自体がおかしいのではないかと思ってしまいます。
しかし、この故意というのは「明らかに18歳以下だと知っていた」場合だけではなく、「もしかしたら18歳以下かもと思っていた」ような場合にも適用されます。
援助交際の相手が制服を着てきた場合はもちろんのこと、外見や言動から未成年である可能性が高いと思っていたような場合は、「知らなかった」では済まされないのです。そして、援助交際で脅迫してくる相手もそこを突いてきます。
実際に、逮捕された多くの人が「18歳未満とは知らなかった」と警察に話しますが、2018年の検察統計調査によれば、逮捕されて検察に身柄送致された683件のうち、検察に釈放されたのはわずかに96件です。つまり86%程度の人が釈放されていないということになります。
逮捕されて72時間が経つと身柄が検察に移され、勾留されることになりますが、勾留されたのは80%以上の678件となっています。一度逮捕されてしまうと恐ろしい事態になることがわかります。
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