「金を出せ」と暴力を振るわれたり、弱みを握られて「バラされたくなければ言うことに従え」などと脅されたりするとき、どこかで食い止めなければ延々と被害を受け続けることになりかねません。
そこで、被害を食い止める方法の一つとして警察に恐喝や脅迫の被害届を出すということが考えられますが、その一方で「被害届を出したのに警察が対応してくれない」「なかなか動いてくれない」という声もよく耳にします。
そもそも、被害届とはどういったものなのでしょうか?
恐喝や脅迫を理由に被害届を出したい時、どれくらいのレベルの被害であれば被害届を出すことができるのでしょうか?
よく聞く「告訴状」との違いはどこにあるのでしょうか?
今回は被害届について解説します。脅迫されたり恐喝された方は、ぜひこの記事を読んでみてください。初めて警察に被害届を出す人のために弁護士がわかりやすく解説しております。
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目次
被害届とはそもそも何?告訴との違いについて
恐喝や脅迫の被害届を出す前に、まずは被害届とは何なのかについて知っておきましょう。
被害届とは
被害届とはその名の通り、自分が受けた被害がどんなものなのかを警察に届け出るものです。どのような犯罪があったのかを警察に申告することで、警察がそれを端緒(きっかけ)として捜査を開始することが期待されています。
告訴とは
被害届と似ている概念に、告訴というものがあります。告訴とは、警察に対して犯罪事実を告知するとともに、犯罪について捜査をし、犯人を突き止めて処罰してほしいと申し出ることです。
被害届と告訴の違い
意外に思われたかもしれませんが、被害届に関しては警察に捜査義務がありません。
被害届は単に「こういった犯罪行為によって被害を受けた」ということを警察に報告するだけのものであり、捜査をするかどうかは警察の判断に委ねられているのです。
言葉は悪いですが、「チクる」のと同じ行為と思っていただけたら良いでしょう。
「○○さんが、私にこんな脅し文句を言ってきたんですよ~」と警察に言いつけることが被害届を提出することと理解して良いでしょう。
一方で、告訴に関しては捜査義務が生じるとされています(刑事訴訟法242条)。
「絶対に脅迫犯人を処罰してほしい」「絶対に恐喝した者を捕まえてほしい」という処罰感情が強いのであれば、告訴状の提出を検討したほうがいいでしょう。
被害届と違い、チクりを入れたうえに、さらに、相手を罰して欲しいとお願いすることと理解しましょう。
この点、脅迫や恐喝の被害者としては、警察に被害届を受理してもらっただけではなんの解決にもなりません。犯人を逮捕してもらわない限りは、延々と脅され続ける可能性があるからです。とすれば、捜査義務が生じる告訴をしたいところですが、そもそも、被害届にしても告訴にしても、警察には受理する義務はあるのでしょうか。
受理義務はあるのか?
被害届にしても告訴にしても、警察には受理する義務があるとされています。以下の2つの条文を見てみましょう。
犯罪捜査規範第61条
警察官は、犯罪による被害の届出をする者があつたときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない。
犯罪捜査規範63条
司法警察員たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、管轄区域内の事件であるかどうかを問わず、この節に定めるところにより、これを受理しなければならない。
どちらも受理義務があることがお分かりいただけたと思いますが、実際には、被害届を受理してくれないことも多く、とくに告訴については受理される割合は少ないのが現実です。
それはなぜでしょうか?
告訴を受理すると捜査義務が生じることは既に説明しましたが、そのほかにも、逮捕して起訴したのか不起訴にしたのか、不起訴にしたならその理由について告訴人に通知する義務も生じるのです(刑事訴訟法260条・261条)。
つまりは、告訴は受理すると面倒くさいというのが正直なところでしょう。
さらに、捜査義務がない被害届ですら警察が受理してくれないケースもありますが、これは、警察も人数が限られているため、重大犯罪ではない軽微な事案については当事者同士で解決して欲しいという考えがあるようです。
なお、犯罪捜査規範は、あくまでも捜査機関の内部規律を定めたものですので、この規定を根拠に被害届や告訴状の受理を求めることはできません。
恐喝や脅迫の被害届を出すメリットとは
警察に出したからといって必ずしも捜査してもらえるという確証がない「被害届」。中には受理すら断られるというケースも問題になっています。
そうであれば、恐喝や脅迫の被害届を出すメリットはどこにあるのでしょうか?
1.告訴状に比べて提出しやすい
先ほど見た通り、告訴状は警察に対して捜査と犯人の処罰を求めるためのものです。また、告訴状を受理すると警察には捜査義務が発生します。
ただし、実務上は告訴状が受理されるハードルがかなり高いものになっています。
その書式も被害届よりも専門的な情報を記載しなければならず、被害を受けた行為がどんな罪名に当たるのかを明確にして記載しなければなりません。
一方で、被害届は捜査義務が警察には課されていないほか、罪名までは特定する必要はなく、どんな被害を受けたかを記載すればよいため、告訴状に比べると提出しやすい(裏を返せば受理されやすい)という一面があります。
2.加害者に対して心理的圧力を与えられる
被害届を出すというより、出すことを示唆することで、脅迫や恐喝の加害者に心理的圧力をかけることができます。
被害の状況によっては、厳重な処罰までは求めない、恐喝行為・脅迫行為さえやめてくれればいいと考える人もいるかもしれません。
そのような場合は、「これ以上脅すのであれば被害届を出しますよ」と警告を与えることで抑止力が働くのです。
この後に解説する、「恐喝・脅迫で被害届を出すときの具体的な書き方」を参考に被害届を書いておき、加害者に示すのも効果的でしょう。
3.示談交渉の材料にできる
被害届に限らず、告訴状もですが、これらを加害者との示談交渉の材料にできるというメリットがあります。
すなわち、脅迫・恐喝の加害者が逮捕されたあとに、「被害届を取り下げて欲しければ示談に応じろ」と要求しやすいということです。
なぜなら、被害届を取り下げると、検察が不起訴(刑事裁判にしないこと)にする可能性が高まるため、加害者としてはなんとしてでも被害届を取り下げて欲しいと考えるからです。その考えを利用して示談交渉に持ち込むのです。
示談の内容としては、被害届を取り下げるかわりに、今後これ以上、恐喝や脅迫行為を行わないことを加害者に約束させるとともに既に脅し取られた金品の返還や慰謝料についても盛り込むことができます。
ただし、捜査機関からしてみれば、事情聴取や調書の作成、捜査で人員を割き、時間と労力を費やしたわけですので、示談交渉のために自分達を利用されたとなればいい気はしないでしょう。
ですので、原則的には、加害者を処罰したいと明確に考えている時に被害届を出すようにしましょう。
そして、状況に応じて示談で穏便に解決する必要がある場合に初めて、被害届の取り下げを検討すべきでしょう。
恐喝罪・脅迫罪の被害届の出し方や流れ
恐喝や脅迫の被害にあって、警察に被害届を出したいと思ったとき、どういったことに注意すればいいのでしょうか。被害届の出し方や流れ、注意点を押さえておきましょう。
どのレベルの恐喝や脅迫だったら被害届が受理される?
警察に被害届を提出しても受理を拒否されることがあることは既に説明しました。その理由として、状況からして警察が動く必要がないと判断されることも考えられます。
じつは、形式的には刑法の脅迫罪や恐喝罪に該当すると思われる行為も、違法性が軽微である場合は有罪にはできません。
被害者が、「脅されて怖かった」と主観的には感じていても、客観的に見て加害者の言動が人を畏怖させる程度の悪質性の高いものか、逮捕・起訴して有罪に持ち込めるかを警察は総合的に判断するのです。
結果、警察が介入するほどの加害行為ではないと判断されれば、被害届は受理されないのです。
捜査機関の判断が入る以上、「このレベルの脅迫行為があれば被害届は受理されます」と明言はできませんが、どのような言動が脅迫罪や恐喝罪に該当するのか、以下の記事でわかりやすく解説されていますので一読することをオススメします。
被害届の提出期限はある?
被害届はいつまでに提出しなくてはならないという期限は定められていません。
しかし、各犯罪には「公訴時効」が規定されており、犯罪が終わった後に一定期間が経過すると検察官が犯人を起訴できなくなります。
起訴ができないと犯人を刑事裁判にかけられませんので、犯人を処罰してもらうことができなくなります。
恐喝罪の公訴時効は7年、脅迫罪の公訴時効は3年ですので、被害にあってからなるべく早く被害申告をする必要があります。
被害届はどこに提出すればいいの?
警察署または交番であれば場所(地域)を問わず提出できます。
ただし、事件の内容によっては交番では対応できないので警察署に行くように言われることがあるため、最初から警察署に出向いた方が二度手間にならずに済みます。
また、どの地域での警察署でも被害届は提出はできますが、管轄警察署(事件のあった場所、被害者の居住地、加害者の居住地のいづれか)以外の警察署に提出するとスムーズな捜査が行われないこともあります。
恐喝・脅迫の被害者が事情聴取や現場検証で呼び出されることがあることも合わせて考えると、被害者の居住地を管轄する警察署に提出するのがベストでしょう。
被害届を出すときに証拠は持参すべき?
持参した方が良いでしょう。
確実に立件できる事案のみ被害届や告訴状を受理したいと警察は考えていますので、被害者の供述だけでなく、一定程度の証拠を求めてくることが多いからです。
また、警察からの質問に対して被害者が要点を得ない回答をすると、「要点を整理してからまた来てください」と返されることもあります。
恐喝・脅迫の被害にあった証拠を持参し、警察に示しながら説明することで、被害状況を理解してもらうことにも役立ちます。
被害届を提出できるのは誰?
原則として、被害者本人が提出することになっています。
ただし、本人が病気や怪我などの理由で提出できない場合は本人の親族も提出できます。
そのため、自分の交際相手が恐喝や脅迫被害にあっているからといって、親族でない者が代わりに被害届を提出することはできません。
また、被害者が未成年者の場合は親権者の同伴が求められることもあります。
恐喝・脅迫で被害届を出すときの具体的な書き方
告訴状よりは簡単に提出できるという被害届ですが、脅迫・恐喝の被害届には主に以下のような情報を記載します。記載時に書き方を迷う箇所について詳しく見ていきましょう。
また、被害届の様式を実際に見ながらの方がわかりやすいので、被害届の様式を開いていただき、それに沿って解説していこうと思います。
- 被害届を提出する日付
- 届出人の住所・氏名
- 被害者の住所・氏名
- 被害者の職業や年齢
- 被害を受けた年月日
- 被害を受けた場所
- 被害状況
- 被害金品
- 犯人の住所・氏名
- 犯人の勤務先
- 犯人の着衣などの特徴
- 遺留品や参考となる事項
被害を受けた年月日・場所
継続的、または断続的に脅迫や恐喝被害を受けているときは、最初に加害行為が始った年月日と直近で被害を受けた年月日を記載してください。
また、被害場所については、住所を番地まで細かく記載します。建物や店舗の中で恐喝にあった場合には、建物名や部屋番号、店の名前までしっかり記入しましょう。複数の場所に跨って被害を受けた場合は、直近の被害場所を書くようにしてください。
ただし、年月日や場所について記憶が曖昧であれば大よそでも構いません。
被害状況・被害金品
被害届の中で重要な項目が被害状況です。脅迫罪とは違い、恐喝罪が成立するためには、脅されて金銭などの財物を相手に渡したということまで必要になります。そのため、恐喝に遭ったということは何らかの金銭的な被害が出ている状況ということです。
そこで、恐喝罪で被害届を出す場合には、被害状況の欄には実際に犯人に渡した金額や金品などのできるだけ細かい情報を記載します。
また、恐喝罪・脅迫罪に共通して言えることですが、具体的な被害状況については細かく記載する必要があります。ほとんどの場合、警察は実際に恐喝や脅迫被害に遭っている現場を見ていないため、被害届が唯一の資料となることも多いからです。
とはいえ、空欄に何から記載していいのか悩んでしまうこともあるかもしれません。もし悩んでしまった場合は、以下の書き方を参考にしてみてください。
- 時系列で起きたことを整理する
- 登場人物を整理する
- どんな恐喝行為があり、どんな被害があったのかを客観的に記載する
- 「大きな」「すごく」などの主観的な言葉は使用せず、客観的に表現できる数字などを使って、人によって受け止め方が違わないようにする
このポイントは、警察官に被害届を代筆してもらう時にも注意してみてください。
犯人の着衣などの特徴
もしも通りすがりに恐喝や脅迫に遭ったなどの理由で犯人の身元がわからない場合は、犯人が特定しやすいように、着ていた衣類がどんなものだったか、身長や体格はどんな風だったかなどの情報を記載します。
また、体の部位に傷やほくろがあったなどの情報も目に留まったものがあれば記載しましょう。できるだけ多くの情報を書いておくことがポイントです。
遺留品や参考となる事項
この欄には、犯人が遺した遺留品(事件現場に残された物)があればそれを記載するほか、捜査機関の参考になると感じた事柄についてはどのようなものでも構いませんので記載しておきましょう。
また、恐喝や脅迫をされたときに暴力を振るわれたのであれば、診断書を提出する旨を記載することもあります。
被害届を取り下げたら事件は終了するの?
被害届を出すか迷ったら弁護士に相談を
脅されたり恐喝された時には、なんとかして被害を食い止めたいと思うものです。その一つの方法が被害届を警察に出すということ。
「絶対に犯人を処罰したい」「なんとしても逮捕してほしい」といった処罰感情が強い場合は、被害届よりも告訴状を提出するほうが効果があることを解説しました。
しかし恐喝や脅迫の被害届にはそれならではのメリットもあるのです。上手に使ってこれ以上に被害が大きくならないよう、被害届についてしっかりと押さえておきましょう。
被害届の書き方や警察への説明の仕方、そもそもその被害状況で警察に相談に行って対応してくれるのかどうか、といったような不安や疑問がある場合は、まず当弁護士事務所にお気軽にご相談ください。状況を詳しくお伺いした上で、具体的なアドバイスや対処法をお伝え致します。
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