「脅迫罪の加害者が初犯(前科がないこと)であれば、実刑の懲役にならないって本当ですか?」
これは、一般的には加害者側が弁護士によく質問する内容ですが、じつは被害者からも同様の質問が弁護士に寄せられることがあります。
その質問の裏には、”自分にあんなに怖い思いをさせておいて懲役刑にならないなんて納得いかない…”そういった感情が込められているものと考えます。
中には、”すぐに自由の身になるのであれば反省も期待できず報復に出られるのではないか”という不安を抱えている方もいることでしょう。
結論からお伝えすると、初犯でも実刑のになることもあります。
この記事では、年間2000件以上の恐喝・脅迫被害の相談を受けている法律事務所の弁護士が、以下の2点につきわかりやすく解説していきます。
- ①脅迫罪の罰則について
- ②脅迫罪は初犯でも実刑の懲役となるのか
およそ3分ほどで簡単に読めますので、”自分が警察に突き出した加害者がどういった刑罰を受ける可能性があるのか”を知りたい方は最後まで読んでみてください。
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脅迫罪の罰則について
脅迫罪を犯すと、2年以下の懲役または30万円以下の罰金となります(刑法222条)。
懲役とは、犯罪を犯した人を刑務所に拘置して、刑務作業をする義務を課す刑罰のことです。
一方、罰金とは、国が犯罪者から強制的に金銭を取り上げる刑罰のことです。
懲役刑に服すると、雑居房で赤の他人と生活し、掃除や炊事、木工や金属加工の生産作業などの刑務作業をやらされるわけですから、罰金刑とは雲泥の差です。
ただし、もし懲役刑を言い渡された場合でも、「執行猶予」がつけば刑務所に入りません。
執行猶予とは、有罪判決となっても一定期間は刑の執行を猶予(先延ばしすること)し、その一定期間内に刑事事件を起こさなかったことを条件として刑罰権を消滅させる制度のことです。
マスコミ報道で、「懲役〇年、執行猶予□年の有罪判決が下されました」といった報道を目にしたことがあるはずです。
これは、「執行猶予期間である□年の間に犯罪を犯さなければ、懲役〇年の刑罰はなくなりますよ」という意味です。
逆に言えば、執行猶予期間中に犯罪を犯せば執行猶予は取り消されますので、取り消された時点から、判決で言い渡された懲役に服するために刑務所に収監されることになります。
なお、執行猶予が付かない懲役刑のことを「実刑」といいます。
脅迫罪は初犯でも実刑の懲役になるのか
初犯とは、一般的には「前科」がない人による犯罪のことを言います。
「前科」とは、過去に有罪判決を言い渡されたことです。
では、脅迫罪の初犯でも実刑の懲役になるのか。
答えは、「初犯でも実刑の懲役もありえます」。
量刑は、脅迫行為の悪質性、具体的には、脅迫行為の内容、生じた結果の大小、犯行に及んだ者の人数、被告人の反省の態度などから総合的に判断されます。
脅迫行為の悪質性が高いと裁判官が判断すれば、初犯であっても実刑判決が言い渡されることもあるのです。
脅迫罪の初犯は不起訴、罰金刑、執行猶予付き懲役になりやすい
脅迫罪の初犯でも実刑の懲役になることもあるとお伝えしましたが、検察統計調査/検察統計のデータによると令和元年の脅迫事件の起訴率は38.1%となっており、約6割が不起訴となっています。
不起訴とは、検察官が公訴の提起をしない、つまりは、被疑者が刑事裁判にかけられることはなく、何のお咎めもなしで前科もつきません(ただし、「前歴」はつきます)。
不起訴処分にならないにしても、略式裁判で30万円以下の罰金刑で済まされることも少なくありません。
略式裁判とは、100万円以下の罰金・科料に相当する事件に用いられる手続きで、検察官が提出した捜査に関する書面をもとに、裁判所が罰金・科料の額を法定刑の範囲内で決定する裁判手続きです。
正式裁判(通常の裁判手続きのこと)と違い、公開裁判は開かれず、被告人が裁判に出廷することもなく、書面で処分が言い渡されます。
また、正式裁判となった場合でも、初犯であれば、罰金刑や執行猶予付き判決となりやすい傾向もあります。
例えば、警察官が被疑者に対し「お前の人生無茶苦茶にしたるわ」などと脅し罰金刑が言い渡された裁判では、当該警察官に前科前歴がなかったことも量刑判断において斟酌されています(平成23(わ)134 脅迫被告事件 平成23年4月28日 大阪地方裁判所)。
罰金刑も執行猶予付き判決もどちらも前科はつきますが、脅迫被害者からしてみれば、初犯であろうが実刑の量刑判断とならないことに納得のいかない方も多いのではないでしょうか。
加害者と示談すると実刑の懲役はさらに遠のく
脅迫の加害者が警察に逮捕されると、弁護士を通じて被害者に示談の申し入れをしてくることがよくあります。
そして、宥恕(「処罰を望まない」こと)文言を入れた示談書に署名捺印するようお願いされます。
何故なら、それにより被害者の加害者に対する処罰感情が低下したと検察官や裁判官は判断してくれるからです。
起訴前であれば検察は不起訴の判断をすることが多くなるでしょうし、起訴後であれば執行猶予が付きやすくなります。
つまり、実刑の懲役を回避できる可能性が高まります。
逆を言えば、脅迫の被害者が加害者の刑事処罰を強く望むのであれば、加害者と示談を結ばないようにする必要があります。
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