遺産相続で相続人の使い込みは横領罪?刑事告訴と取り戻す方法

遺産相続をきっかけに「他の相続人が親の預金を勝手に使い込んでいた」と発覚するケースは少なくありません。使い込まれた遺産を取り戻したい、刑事告訴して責任を問いたい、という相談が当事務所にも多く寄せられます。

遺産を無断で使い込んだ場合、横領罪・窃盗罪・業務上横領罪・詐欺罪が成立する可能性があります。ただし、刑法244条の「親族相盗例」という規定により、配偶者・直系血族・同居の親族との間で横領や窃盗をした場合には刑が免除されます。一方で、成年後見人として財産を管理していた場合や親族でない共犯者がいた場合には、親族相盗例は適用されず処罰の対象になります。

この記事では、親族間トラブルの解決実績が豊富な弁護士が、次の点について解説します。

  • 遺産の使い込みで成立する横領罪・業務上横領罪・窃盗罪・詐欺罪
  • 親族間の横領で刑事告訴できる条件と告訴の流れ
  • 民事で遺産を取り戻す方法と公訴時効・民事時効
  • 親族相盗例で刑が免除されるケースと適用されない例外

なお、親族間の横領問題でお悩みの方は、この記事をお読みいただいた後、全国どこからでもご利用いただける当事務所の無料相談へお気軽にご連絡ください。

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親族の財産を使い込むと成立する犯罪

遺産相続にあたって、亡くなった親や祖父母の預貯金などの相続財産を勝手に使い込んだ場合、どの犯罪が成立するかは、財産の管理を任されていたかどうか、使い込んだ手段が何だったかによって変わります。横領罪・窃盗罪・業務上横領罪・詐欺罪の4つが主な候補です。

管理を任されていた場合は横領罪・業務上横領罪

横領罪は、自分が管理している他人の財産を勝手に処分した場合に成立する犯罪です。

(横領)

第252条 自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の拘禁刑に処する。

出典:e-Gov法令検索

※拘禁刑とは、2025年6月1日に施行された改正刑法により、従来の懲役刑と禁錮刑が一本化された刑罰のことです。

たとえば、高齢の親から「通帳を預かって生活費を管理してほしい」と頼まれていた子どもが、親に無断で預金を引き出して自分の借金返済やギャンブルに使った場合、横領罪が成立し得ます。

ただし、親から「好きに使っていい」と言われていた場合や、事前に承諾を得ていた場合には、横領罪は成立しません。あくまで「無断で」「自分のために」処分した場合に問題となります。

なお、後見人として家庭裁判所から選任され、被後見人の財産を管理していた立場での横領は、より重い業務上横領罪(10年以下の拘禁刑)が適用されます。詳しくは後述の「親族相盗例が適用されない例外」で解説します。

このように同じ横領でも立場によって成立する罪名が変わるため、横領罪の類型ごとの違いは「横領罪とは?3つの種類と構成要件・罰則を解説」もあわせてご参照ください。

管理を任されていなかった場合は窃盗罪

財産の管理を任されていたわけではなく、親族の財産を勝手に持ち出して使った場合には、横領罪ではなく窃盗罪が成立します。

(窃盗)

第235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。

出典:e-Gov法令検索

たとえば、実家に帰省した際に親の財布からお金を抜き取った場合や、親が入院中に勝手に通帳と印鑑を持ち出して預貯金を引き出した場合などが該当します。

こうした行為が窃盗罪にあたるかの判断基準や科される刑については「窃盗罪とは?構成要件や刑罰は?窃盗の示談・逮捕に強い弁護士が解説」にまとめています。

親族を騙して財産を得た場合は詐欺罪

判断能力の低下した親族をだまして財産を交付させた場合や、虚偽の理由で送金させた場合には、詐欺罪(刑法246条)が成立する可能性があります。たとえば、認知症の親に「あなたの治療費が必要だ」と嘘をついて多額の預貯金を振り込ませた、というケースです。

詐欺罪も後述する親族相盗例の対象であり、配偶者・直系血族・同居の親族との間の詐欺については刑が免除されます。

どのような行為が詐欺罪にあたるのかは「詐欺罪とは?成立要件・欺罔行為の意味・罰則・詐欺の種類を解説」をご参照ください。

親族間の横領は刑事告訴できる?

相続人の使い込みを刑事告訴できるかどうかは、加害者との親族関係次第で結論が分かれます。遺産相続をめぐる横領罪では、刑法244条の「親族相盗例」という規定により、一定の親族間では刑が免除されたり、告訴がなければ起訴できなかったりします。

(親族間の犯罪に関する特例)

第244条 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪、第235条の2の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。

2 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

3 前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。

出典:e-Gov法令検索

「法は家庭に入らず」という法格言に基づき、親族間の財産トラブルは国家が刑罰権を行使するよりも、親族間での解決に委ねるべきだという考え方が背景にあります。

親族相盗例で刑が免除される親族の範囲

親族相盗例により刑が免除されるのは、以下の親族です。

  • 配偶者:法律上の婚姻関係にある夫または妻(内縁関係は含まれません)
  • 直系血族:親、子、祖父母、孫など。養親・養子も含まれます
  • 同居の親族:同じ住居で日常生活を共にしている親族。兄弟姉妹や姻族(配偶者の親族)も同居していれば該当します

子どもが親の財産を使い込んだ場合、「直系血族」に該当するため、横領罪や窃盗罪が成立しても刑は免除されます。配偶者が相手の財産を使い込んだ場合も同様です。

刑が免除されるということは、たとえ他の親族から刑事告訴されても起訴されて刑罰を受けることはないということです。警察に被害届を出されても、親族相盗例の適用がある場合には捜査機関が積極的に動くことは通常ありません。

なお、親族相盗例の対象となる財産犯は、横領罪・業務上横領罪・窃盗罪のほか、詐欺罪・恐喝罪・背任罪・不動産侵奪罪などです。強盗罪・暴行罪・傷害罪などの身体犯や、脅迫・強要のような自由犯には親族相盗例の適用はありません。背任罪と横領罪の違いについては「背任罪とは?成立要件・時効・横領罪との違いをわかりやすく解説」で解説しています。

親告罪となる親族の範囲

「配偶者・直系血族・同居の親族」以外の親族との間で横領や窃盗を行った場合には、刑の免除ではなく「親告罪」として扱われます。親告罪とは、被害者などからの告訴がなければ起訴できない犯罪のことです。逆に言えば、告訴があれば起訴される可能性があります。

たとえば、同居していない兄弟姉妹の財産を使い込んだ場合や、同居していない義理の親(配偶者の親)の財産を使い込んだ場合などが該当します。このようなケースでは、相手から刑事告訴されれば刑事事件として処罰される可能性があるため注意が必要です。

親族相盗例が適用されない例外

親族間の横領であっても、親族相盗例が適用されず、通常どおり処罰されるケースがあります。代表的なのが、後見人として財産管理をしていた場合と、親族でない共犯者がいる場合です。

親族であっても、成年後見人として家庭裁判所から選任され、被後見人の財産を管理していた場合には、親族相盗例は適用されません。後見人は、本人のために財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っており、その職務には公的な性格があるためです。「法は家庭に入らず」という親族相盗例の趣旨が当てはまらないと判断されています。

また、後見人として財産管理を行っていた場合には、単純な横領罪ではなく、より重い業務上横領罪が適用され、法定刑は10年以下の拘禁刑となります。

(業務上横領)

第253条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の拘禁刑に処する。

出典:e-Gov法令検索

業務上横領罪の構成要件・事例・判例について詳しくは「業務上横領罪とは?逮捕されないケースと構成要件・事例・判例」をご参照ください。

共犯者がいる場合についても、親族相盗例は親族である本人にのみ適用されます。たとえば、子どもが友人と共謀して親の財産を使い込んだ場合、子どもには親族相盗例が適用されて刑が免除されますが、友人には適用されないため処罰の対象となります。

刑事告訴の判断軸と告訴の流れ

遺産を使い込んだ親族が「配偶者・直系血族・同居の親族」のいずれかに該当する場合、親族相盗例で刑が免除されるため、刑事告訴をしても起訴・処罰は望めません。これに対し、同居していない兄弟姉妹や子の配偶者、後見人だった親族については、親告罪または通常どおり処罰される対象となるため、刑事告訴が現実的な選択肢となります。

もっとも、刑事告訴の受理には時間がかかり、警察が「家族の問題は家族で解決してほしい」と対応をためらうことも珍しくありません。確実に告訴を受理してもらうには、預金口座の取引履歴、被相続人の介護記録、認知症の診断書など、使い込みを裏付ける客観的な証拠を整えてから動くことが重要です。証拠が薄い段階では被害届の提出にとどめ、捜査の進展を見て告訴に切り替える、という選択肢もあります。

告訴が受理された後の刑事手続きの流れについては「横領で刑事告訴されたらどうなる?受理された後の流れや対応方法を解説」で詳しく解説しています。

親族相盗例の適用が争われた判例

親族相盗例はどこまで適用されるのか。遺産相続をめぐる横領罪では、適用範囲が最高裁まで争われた事例がいくつかあります。ここでは、適用の限界を示した代表的な2つの最高裁判例を紹介します。

内縁の配偶者には親族相盗例は適用されないとした判例

最高裁判所は、内縁の配偶者には親族相盗例(刑法244条1項)の適用も類推適用もないと判断しています(最高裁平成18年8月30日第二小法廷決定、平成18(あ)334)。

この事件では、被告人が内縁関係にあるパートナーの財産について犯罪を行い、弁護側は「実質的に配偶者と同じ立場にあるのだから、親族相盗例で刑が免除されるべきだ」と主張しました。しかし最高裁は、刑が免除される範囲は法律で明確に定められており、内縁の配偶者は法律上の「配偶者」に含まれないと判断して上告を棄却しました。

この判例により、たとえ長年連れ添った内縁関係であっても、親族相盗例による刑の免除は受けられないことが確定しました。

成年後見人による業務上横領は刑が免除されないとした判例

最高裁判所は、成年後見人による業務上横領について、被後見人と親族関係にあっても親族相盗例による刑の免除は認められないと判断しました(最高裁平成24年10月9日第二小法廷決定、平成24(あ)878)。

この事件では、養父が成年後見人として養子(成年被後見人)の財産を業務上横領した事案について、弁護側が「成年後見人と被後見人は親族関係にあるのだから、刑法244条1項の準用により刑が免除されるべきだ」と主張しました。

これに対し最高裁は、成年後見人の事務は公的性格を有しており、被後見人の財産を誠実に管理する法律上の義務を負っていることから、親族関係があっても刑の免除はできないと判断しました。また、量刑の場面でも親族関係を有利な事情として考慮することは相当ではないとされています。

この考え方は、成年後見人だけでなく未成年後見人にも及ぶとされており(最高裁平成20年2月18日第一小法廷決定、平成19(あ)1230)、後見人として法律上の財産管理義務を負う立場では、親族相盗例の保護は受けられないというのが現在の確立した判例の立場です。

民事で遺産を取り戻す方法

遺産相続をめぐる横領罪は、親族相盗例で刑事責任を問えない場合でも、民事で使い込まれた遺産を取り戻すことは可能です。中心となるのは不当利得返還請求と不法行為に基づく損害賠償請求です。

不当利得返還請求

不当利得返還請求は、法律上の原因なく相手が得た利益の返還を求める制度です(民法703条)。親族が遺産を使い込んだ場合、その金額分を「不当に得た利益」として返還請求できます。

時効は、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年です(民法166条)。

不法行為に基づく損害賠償請求

不法行為に基づく損害賠償請求は、違法な使い込みによって生じた損害の賠償を求める請求です(民法709条)。不当利得返還請求と同時に主張することも可能で、訴訟手続きはひとつにまとめられます。

時効は、被害者が損害と加害者を知った時から3年、または行為時から20年です(民法724条)。

遺産分割協議との関係

遺産相続をめぐる使い込みの問題は遺産分割協議の前提となる事項ですが、原則として遺産分割調停・審判では取り扱われません。令和元年7月1日以降に発生した相続については、相続人全員の同意があれば遺産分割の対象に含めることもできるようになりましたが(民法906条の2)、同意が得られないケースでは別途、不当利得返還請求訴訟または損害賠償請求訴訟を提起することになります。

取り戻せる範囲は、原則として自身の法定相続分に相当する部分に限られる点にも注意が必要です。

親族間の横領の時効

遺産相続で発覚した親族の使い込みに気づいたら、時効までに動かなければ責任追及の手段が限られます。刑事と民事で時効の長さも起算点も異なるため、それぞれの期間を正しく押さえておきましょう。

刑事の公訴時効・告訴期間

横領罪の公訴時効(起訴できる期限)は、単純横領罪で5年、業務上横領罪で7年です(刑事訴訟法250条)。この期間は横領行為を行った時点から進行します。

ただし、親族相盗例が適用されない親族との間の横領は親告罪であり、告訴期間は「犯人を知った日から6か月」です。この6か月が経過すれば刑事告訴はできなくなるため、使い込みに気づいた段階で早めに動くことが重要です。

横領罪の時効の起算点や進行の詳細については「横領罪の時効は何年?いつから進行する?民事の時効も解説」で詳しく解説しています。

民事の時効

刑事の公訴時効が成立した場合や、親族相盗例で刑事責任を問えない場合でも、民事上の返還請求は別に可能です。

被害者からの損害賠償請求(不法行為)は、被害者が損害と加害者を知った時から3年、または行為時から20年で時効となります(民法724条)。また、不当利得返還請求については、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年で時効となります(民法166条)。

つまり、刑事で追及できない場合でも、民事で遺産を取り戻す道は残されています。ただし、民事の時効も期間制限があるため、早めの行動が重要です。

また、時間が経つほど客観的な証拠は失われていきます。預金口座の取引履歴は金融機関で一定期間保管されますが、長期間経過すると取得が困難になることもあります。介護記録や認知症の診断書、関係者の証言なども、時間とともに収集が難しくなる傾向があります。時効を意識して早めに弁護士に相談し、証拠保全と請求準備を進めることが、遺産を取り戻す確実な方法です。

親族間の横領問題でお困りの方へ

遺産相続にあたって発覚する親族の使い込みは、親族相盗例で刑事告訴が難しいケースもある一方、後見人だった場合や同居していない親族との間では刑事告訴も選択肢となります。刑事告訴ができない場合でも民事上の返還請求は残されており、放置すれば相続トラブルにまで拡大する難しい問題です。

親族間の財産トラブルは感情的な対立が激しく、当事者同士の話し合いでは解決が進まないのが実情です。弁護士が間に入ることで、相手方への返還請求や告訴の準備を客観的に進められます。早く動くほど、証拠保全・時効回避・取り戻し成功の確率は上がります。

「他の相続人に遺産を使い込まれたが、どう動けばいいか分からない」「相手が認めず話が進まない」「証拠の集め方が分からない」「時効が心配」。こうした状況に置かれている方は、一人で抱え込まず弁護士にご相談ください。精神的な負担も大きい問題ですので、早期に専門家の支援を受けることをおすすめします。

当事務所は、横領罪をはじめとする刑事事件と親族間トラブルの解決実績を豊富に有しており、被害者側の刑事告訴・民事請求・証拠収集まで一貫してサポートいたします。全国どこからでもご利用いただける無料相談を設けておりますので、まずはお気軽にご相談ください。

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この記事の監修者

若井亮 弁護士

若井 亮

代表弁護士

弁護士法人若井綜合法律事務所
東京弁護士会所属(登録番号:47827)

弁護士紹介ページ

刑事事件の弁護に注力する法律事務所の代表弁護士。逮捕回避・早期釈放・不起訴獲得・示談交渉など、被疑者・被告人の権利を守るための迅速な弁護活動に豊富な実績を持つ。痴漢・盗撮・暴行傷害・薬物事件・性犯罪など幅広い刑事事件に対応し、24時間体制で依頼者とそのご家族を全力でサポートしている。

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