お金に困って闇金から借金をしてしまった。知人に借金をしたら知人がヤクザに取り立てを依頼していたなど、ヤクザから借金の取り立てを受けてしまうことがあります。
大声で怒鳴られたり、自宅や職場を突き止めて執拗に来られたりといった実害は凄まじいもの。
しかし、このようなヤクザの取り立てはそもそも違法です。そこで、その違法性の分析や、すぐにやめさせるための効果的な対処法について弁護士が徹底解説します。
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目次
ヤクザの取り立て3類型とその違法性を分析
パターン①ヤミ金への返済が滞る
ヤクザから取立てを受ける被害のほとんどが、このヤミ金絡みといえます。
ヤミ金といえば090金融のように、貸金業の登録をせずに運営していると思われがちですが、じつは、正規の登録をしておきながら出資法に違反する高金利(具体的には年利20%を超えるもの)で貸付をしている業者もヤミ金となります。
このヤミ金ですが、運営主体は、①ヤクザが直営②経営者は一般人であるがバックに暴力団がついている、という2つに大別することができます。
今現在は、このあとに説明する「ヤミ金対策法」が施行され罰則が厳しくなったことから、逮捕されたときのリスクが大きいために①のヤクザ直営の形式は徐々に陰を潜めるようになりました。そして、②一般人が運営するヤミ金の用心棒のような形でみかじめ料で稼いだり、形式上は一般人を経営者に仕立て上げて裏で実質的には暴力団が運営するという形態が台頭してきました。
どちらにせよ、ヤミ金からお金を借りるということは必ずヤクザが関っていると考えたほうが良いでしょう。
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取立ての違法性:「ヤミ金融対策法」に違反しているかが鍵
ヤミ金の手荒で暴力的な取立てが社会問題化したことから、高金利での貸付や、無登録営業、違法な取り立てについての罰則を大幅に引き上げる「ヤミ金融対策法」が平成15年7月に国会で成立しました。また、罰則の強化の他、暴力団員が金融業に介入できないよう、暴力団は貸金業の登録ができない規定も盛り込まれています。
重い罰則規定がある法律ですので、法律に違反する行為があれば、刑事事件として警察に動いてもらうことも可能ですし、そうでなくても弁護士が間に入り、刑事告訴を検討していると相手に示唆して取り立て行為をやめさせる方向に繋げることもできます。
では、ヤミ金の取り立ての違法性をこの法律に照らし合わせて見ていきましょう。
- 正当な理由がないのに勤務先や自宅に訪問すること
- 要求を無視して居座ること
- 債務者以外の人にお金を返すよう要求すること
- 弁護士等が間に入ったのに、直接債務者にコンタクトを取ること
- 債務者に対して「他から借金しろ」などといって返済金の調達を求めること
- 張り紙をするなどの方法で債務者の借金の事実、そのほかの私生活上の情報を第三者に告知すること
見てわかるとおり、基本的にこれまでヤクザが取り立ての際に行ってきた自宅への押しかけや張り紙などの手法は、ヤミ金融対策法において「違法」だと判断されているということになります。
また、貸金業法には、罰則規定が設けられています。行為によって罰則の程度は違っており、中には罰金で済むような行為もあります。しかし違法な取り立てに関しては、2年以下の懲役または300万円以下の罰金と、重い罰則規定が設けられています。
ヤミ金融対策法この2点は押さえておこう
ヤクザがらみの取り立てを行ってくるヤミ金は、違法な貸金業者です。近づかないに越したことはありませんが、万が一接触してしまったり、すでに利用してしまっている場合には、ヤミ金融対策法を知っておくことが身を守るためにも重要です。ヤミ金融対策法において、ここだけは押さえておきたいというところをまとめました。
1.「違法な貸金業者」
貸金業を営むためには、国や都道府県に貸金業の登録を申請しなければなりません。この申請が行われていない貸金業者は違法です。ちなみに、貸金業の登録には欠格事由が定められており、現在暴力団員であることや、暴力団員でなくなって5年を経過しない者など、暴力団と関わっている人は登録を行うことができないと定められています。
金融機関が違法かどうかについては、金融庁のホームページから調べることができます。
※但し、先に説明しましたが、一般人を経営者に仕立て上げて裏でヤクザが取り仕切っているような場合や、バックとしてついているような場合もありますので、貸金業の登録をしているからといって必ずしも安心できるわけではないことに注意が必要です。
2.高金利での金銭消費貸借契約は無効
利息制限法では、金銭消費貸借契約における利息の上限が定められており、その上限を超えたときには、取り立てがおこなわれたとしても、超えた利息を支払う必要はありません。しかしヤミ金融対策法の場合は、利息分だけではなく、契約そのものが無効となります。
契約が無効となるボーダーラインは「年利109.5%(閏年は年利109.8%)」です。この109.5%という数字は、出資法で定められており、109.5%を超える年利での契約は「出資法違反」となります。
ここで気になるのが「契約が無効になるのであれば、借り入れた元金はヤクザに返さなければならないのではないか」ということではないでしょうか。
たしかに、契約が無効になっている以上、債務者にもお金を借りているという現状に正当な理由がありません。そのため、取り立ての有無にかかわらず、一般的には「不当利得」として返還しなくてはならないとも思えます。
しかし、この元金についても返済義務はないとして、最高裁の判例が出ています。
ヤクザの違法な貸付は「不法原因給付」となり、ヤクザはお金を貸した人に対して「貸した金を返せ」と取立てを行うことは法的に認められないということです。
とはいえ冒頭でも説明をしたとおり、ヤミ金の住所を特定することはほぼ不可能なため、ヤミ金を相手に裁判を起こすことは基本的にできません。また、ヤミ金も自身が違法であることを重々承知の上で厳しい取り立てなどをしてきます。
取り立てをしてきたヤクザに対してこの契約が無効だと伝えたところで、火に油をそそぐ結果になる可能性もありますが、「ヤミ金からの借金に返済義務はない」ということを知っておくのと知らないのとでは、大きな違いが出てきます。
パターン②貸主がヤクザに債権回収を依頼
債務者が支払を滞納すると、貸主がヤクザに報酬を支払って債権回収を依頼するケースがあります。
全く返済してこない債務者がいる場合、債権者にしてみれば、取り立てたお金の一部をヤクザに報酬として支払ったしても、全く回収ができないよりはマシなためです。
貸主が個人の場合、貸金業法の適用がない
銀行や証券金融会社など、お金を他人や他企業に貸すことを業としている業者のことを、貸金業法では貸金業者と定義しています。また、債権回収を業務とすることを法務大臣から許可されている会社のことを、サービサー法では債権回収会社と定義しています。
そして、これらの貸金業者や債権回収会社は、債権回収業務を暴力団員に委託したり業務に従事させてはならないとそれぞれ法律で規定されています。
しかし、銀行などの金融機関ではなく、個人が貸主の場合はこの貸金業法やサービサー法と呼ばれる法律の適用がありません。
そのため、ヤクザが報酬をもらって、個人の貸主の依頼により債権の取り立てが可能かのようにも思えます。しかし、ここで問題になってくるのが弁護士法です。
弁護士法違反・暴力団対策法違反
報酬を得て債権回収をすることが法律上認められているのは、弁護士と、弁護士法の特例として認められている、債権回収会社(サービサー)だけです。
そのため、ヤクザが債権者から報酬をもらう目的で、債権者に代わって取り立てをすることは非弁行為(弁護士でないものが法律業務を行うこと)として弁護士法違反になります(弁護士法72条・73条)。
また、ヤクザが報酬を得たり得る約束をして、人から債権回収の依頼を受け、債務者に対して乱暴な言動や迷惑をかける方法で取り立てを行えば、暴力団対策法違反にもなります。
パターン③債権譲渡でヤクザが貸主になる
債務者が返済をしないような焦げ付いた債権をヤクザが買い取ることは通常ありません。違法な債権回収業者や事件屋(どちらも実質的にヤクザ)が債権者に代わって取り立てを行い、回収できたお金の何割かを報酬として受け取るのが一般的です。
しかしこれでは、パターン②で解説したように、弁護士法や暴力団対策法違反となってしまいます。そこで、名目上は債権譲渡が行われたことにして、ヤクザが債権者の立場で取り立てを行うことがあります。
貸金業法違反
貸主である債権者が、貸金業法でいう「貸金業者」にあたるならば、債権者が暴力団員に債権を譲渡することは違法と定められています。(貸金業法24条3項)。
貸金業法24条(※一部抜粋)
3 貸金業者は、貸付けの契約に基づく債権の譲渡又は取立ての委託(以下「債権譲渡等」という。)をしようとする場合において、その相手方が次の各号のいずれかに該当する者(以下この項において「取立て制限者」という。)であることを知り、若しくは知ることができるとき、又は当該債権譲渡等の後取立て制限者が当該債権の債権譲渡等を受けることを知り、若しくは知ることができるときは、当該債権譲渡等をしてはならない。
一 暴力団員等
二 暴力団員等がその運営を支配する法人その他の団体又は当該法人その他の団体の構成員
恐喝罪・暴力団対策法・脅迫罪
友人・知人などの個人が貸主の場合には、貸金業法は適用されません。そのため、その友人や知人がヤクザに債権譲渡しても違法ではありません。
ただし、債権を譲り受けたヤクザが、債務者の生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加えることを告知して取り立て行為をすれば、恐喝罪になります。
また、ヤクザが組(指定暴力団)の名前を出すなど、暴力団であることを告げて脅迫すれば、暴力団対策法違反となります。
なお、元の債権者が「お金を返さないからヤクザに債権譲渡した」と債務者に伝えていた場合、その言葉が脅迫罪に当たる可能性があります。ヤクザの手に債権が渡れば、その後に壮絶な取り立てが行われることは容易に想像ができ、客観的にみて人が恐怖を抱くであろうと考えられるからです。
ヤクザの取り立てへの2つの対処法
1.証拠を集めて警察に対応してもらう
警察には「民事不介入の原則」があり、単なる金銭絡みのいざこざには手出しができないようになっています。しかし、ヤミ金対策法に違反する違法な契約や取り立て行為があった場合は、警察も積極的に介入することが可能です。
そして、警察に積極的に動いてもらうためには、次のような証拠を確保しておくとよいでしょう。残せるものは全て保管しておきましょう。
- 違法金利の貸付でであることが分かるもの
- 違法取立てをされたことが分かるもの
- 業者の代表名や住所
- 業者とのやり取りの記録、着信履歴やメールアドレス
2.民事介入暴力に強い弁護士に対応を依頼する
民事介入暴力とは、暴力団が民事的な紛争ごとに介入してそれを暴力的に解決し、その見返りとして金品などを要求する行為をいい、ヤクザによる取立てもそれに含まれます。
被害事例としては、借金を滞納したところ、貸主ががヤクザにその取り立てを依頼した、というようなケースもあります。
弁護士によっては、暴力団に尻込みして依頼を受けたがらないこともありますが、暴力団対応に慣れている弁護士であれば、違法な取り立て行為を阻止することも可能です。
刑事事件にすることで相手からの報復行為が心配されるときは、弁護士に間に入ってもらい穏便に解決したほうが良いでしょう。
弁護士から内容証明で警告文を送ることは有効か
一般的な借金の取立てについては、弁護士から内容証明郵便を送って違法な取り立てに対し警告を与えることもあります。しかし、闇金はそもそも店舗を構えていないため、住所を特定することができません。
たしかに昔は、「漫画 闇金ウシジマ君」のモデルケースのように店舗を構える闇金もありました。しかし、警察がヤクザの収入源である違法高利貸しに対しての取り締まりを厳しくしてきたことから、今では店舗型の闇金は皆無といっていいでしょう。そのため、内容証明郵便を送る方法はとれません。
また、一部サイトでは、債務整理をすればヤクザの取り立てが収まるといった情報が見受けられますが、これも間違いです。
債務整理とは、借金を減免したり、支払を猶予してもらう手続きですが、大前提として「債務が適法に存在している」ことが必要です。
しかし、闇金は違法にお金を貸し出す集団であり、債務整理は違法借金は対象外なので、債務整理はできません。それどころか、そもそも闇金からの借金は返済義務すらないのです。
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