追突されるなどして交通事故の被害に遭った場合、加害者が任意保険に加入している場合は、通常は、加害者の保険会社の担当者と示談交渉します。
もっとも、そもそも加害者が任意保険に加入していない場合もあります。
また、任意保険に加入していても加害者が保険を使うことができない場合もあります。
以上の場合は、加害者が弁護士に示談交渉を依頼しない限り、加害者と直接示談交渉しなければなりません。
しかし、直接、加害者と示談交渉となると、加害者に対する怒りや憎しみからついつい感情的になり、相手の態度によってはときに行き過ぎた対応を取ってしまうと、加害者から反対に「脅迫された」、「恐喝を受けた」などと思ってもみなかったことを言われてしまうおそれがあります。
今回は、そうした事態となった場合に慌てないためにも、脅迫罪や恐喝罪の意味、加害者から脅迫、恐喝などと言われた際の対処法などについて詳しく解説してまいります。
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そもそも「脅迫」、「恐喝」とは?
加害者から「脅迫された」、「恐喝を受けた」などと言われても、必ずしもその加害者が脅迫、恐喝の意味について正しく理解した上でそう発言しているとは限りません。
ここでは、加害者から「脅迫された」、「恐喝された」と言われて慌てないためにも、脅迫罪、恐喝罪の成立要件や脅迫、恐喝の正しい意味についてしっかり確認していきましょう。
脅迫(罪)とは
脅迫罪は刑法222条に規定されています。
(脅迫)
第222条
1.生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
2.親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
以上の規定をまとめると、脅迫罪の成立要件は以下のとおりとなります。
脅迫罪の成立要件 | |
---|---|
行為 | 生命、身体、自由、名誉又は財産に対して害を加える旨の告知(害悪の告知) |
害悪の告知の対象 | 加害者、加害者の親族 |
また、害悪の告知の具体例は以下のとおりです。
害悪の告知の具体例 | |
---|---|
生命 | これから生きていられると思うなよ など |
身体 | 同じく痛い目に遭わせてやる など |
自由 | 随時、お前の行動を見張っているぞ など |
名誉 | ネット上に情報を拡散してやる など |
財産 | 家を焼いてやる、車を動かなくしてやる など |
害悪の告知の方法は問いません。
加害者に直接会って言った場合はもちろん、電話、メール、FAXを使って伝えた場合などでも脅迫罪が成立する可能性があります。
恐喝(罪)とは
恐喝罪は刑法249条に規定されています。
(恐喝)
第249条
1.人を恐喝して財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
以上の規定をまとめると、恐喝罪の成立要件は以下のとおりとなります。
恐喝罪の成立要件 | |
---|---|
行為 | 恐喝 |
害悪の告知の対象 | 財物の交付 |
財物(お金)を交付させる(支払わせる)目的がある点で脅迫罪と区別されます。
恐喝とは、お金(賠償金、示談金)を支払わせることを目的とした暴行、脅迫(行為)のことです。
暴行、脅迫の程度は、加害者に単に「困っちゃうな」などという念を抱かせるだけでは足りず、お金を支払うか支払わないかの意思決定を制限させ、やむなく支払わせるに至る程度のものである必要があります。
なお、加害者の意思決定が完全に制限され、加害者が反抗できない状態となった場合は強盗罪(刑法236条)の暴行、脅迫に当たる可能性がありますので注意が必要です。
さらに、恐喝の結果、加害者にお金を支払わせた(財物を交付させた)という因果関係が認められることが必要です。
つまり、恐喝された加害者が、もし被害者の要求に応じなければ、さらなる暴行を受けるとか、脅迫された内容が現実的になるという畏怖の念を抱き、それを免れるためやむなくお金を支払ったという関係性が認められることが必要です。
なお、何らかの事情でお金を得ることができなかったという場合でも、加害者を恐喝して畏怖させた以上、恐喝未遂罪が成立する可能性があります。
加害者に脅迫、恐喝してしまいがちなケース
では、実際に、どんなケースで加害者に脅迫、恐喝してしまいがちか見ていきましょう。
あらかじめ把握しておくことで、脅迫、恐喝することを未然に防ぐことにも役立ちます。
加害者が任意保険に加入していない、保険を使えない
この記事の冒頭でも触れましたが、加害者が任意保険に加入していない、加入していても保険を使えないという場合は、加害者が弁護士に示談交渉を依頼しない限り、加害者と直接示談交渉しなければなりません。
あなたは交通事故のよって痛い目、苦しい目にあっているわけですから、怪我の程度が大きくなればなるほど、加害者に対して抱く怒りや憎しみの感情は大きくなります。
そうした状況下で、加害者と直接示談交渉するとなると、ついつい感情的になって冷静に対応することが困難となり、脅迫、恐喝してしまいがちになります。
加害者が任意保険に加入しているのに、加害者に直接コンタクトを取る
また、加害者が任意保険に加入している場合でも、「保険会社が間に入っているからなかなか話が進まず、加害者と直接交渉した方がはやいのではないか」、「実際のところ、加害者がどう考えているのか知りたい」などという思いから、加害者に直接コンタクトを取るケースが少なくありません。
しかし、加害者は、担当者から「被害者と交通事故の話はしないでください」などと言われ、敢えて被害者とコンタクトを取ることを控えていることも多いです。
そうした中、突然、加害者にコンタクトを取ると、加害者からは「対応は保険会社に任せている」などと言われ、被害者にとってみれば「不誠実な対応だ」と感じ、ただでさえ加害者に対して強い怒りや憎しみを抱いているところ、さらに怒りや憎しみの感情が倍増して、脅迫、恐喝してしまいがちになります。
加害者に脅迫や恐喝されたと受け止められた場合のリスク
あなたは脅迫、恐喝したつもりはなくても、加害者によっては「脅迫された」、「恐喝された」と受け止めてしまうかもしれません。
以下では、加害者が「脅迫された」、「恐喝された」と受け止められてしまった場合に起こり得るリスクについてご紹介してまいります。
警察に相談される、被害届を提出・受理されてしまう
一番考えられることは警察に相談されることでしょう。
もっとも、警察は「民事不介入」の立場を取り、交通事故の示談交渉には立ち入ることができませんので、加害者の相談に留まる限りは、ほとんど影響はないと考えてよいでしょう。
しかし、加害者が相談を重ねる中で、警察が徐々に刑法上の脅迫罪、恐喝罪に当たるのではないかと疑念を持ちだした場合は別です。
警察に疑念を持たれた場合は、これ以上、犯罪による被害を生み出すことを防止するという意味で、警察官から電話で注意を受ける、場合によっては警察署に出頭を求められ直接口頭で注意を受けるということも考えられます。
また、警察が脅迫、恐喝事件の立件化に向け、脅迫・恐喝の被害届を受理し、本格的な捜査に乗り出した場合は、警察官から出頭を求められて取調べを受ける、嫌疑が固まり、逃亡・罪証隠滅のおそれが高いと判断されれば逮捕される、ということも考えられます。
≫恐喝や脅迫の被害届が出されたら受理される?告訴とどう違う?
このように、警察に脅迫・恐喝の嫌疑をかけられると、将来的には刑罰(脅迫罪は「2年以下の懲役又は30万円以下の罰金」、恐喝罪は「10年以下の懲役」)を受ける可能性もでてきます。
民事上(交通事故の示談交渉で)は「被害者」だったあなたが、刑事上は、一転して「加害者」となってしまう可能性があるということです。
直接交渉が不可能となり、解決までに費用、時間、手間がかかる
加害者に「脅迫された」、「恐喝された」と受け止められてしまうと、加害者にコンタクトを取ることを拒否され、もはや加害者と直接示談交渉することは不可能となるでしょう。
その場合、あなたは弁護士に依頼して、弁護士を代理人として再交渉を試みようとするでしょうが、弁護士に依頼するには費用がかかります。
また、弁護士に依頼したからといって、すぐに交渉を再開できるという補償はありませんし、仮に交渉を再開できたとしても、話がこじれにこじれ、交渉が長期化することが考えられます。
そして、交渉で解決できない場合は、ADR、民事調停、裁判を活用することを検討しなければなりませんが、活用した場合は解決までに費用や時間、手間がかかり、最終的に賠償金(示談金)を受け取ることができるのは、交通事故から数年後となることをも十分に考えられます。
なお、賠償金を受け取るまでに時間がかかる場合は、加害者の自賠責保険会社に対して仮渡金等の支払いを請求することも検討しなければなりませんが、手続きはご自身で行う必要があり、やはり必要な資料集めなどに時間や手間を取られてしまいます。
リスクを回避するための対処法
前述したリスクを回避するための対象は、何より、加害者と直接示談交渉しない、ということに付きます。
加害者に直接接触するからこそ、脅迫、恐喝を疑われる行為をしてしまうわけですから、その接触の機会を持たなければよいのです。
そこで、以下では、いかにして加害者と接触しないのか、その方法についてご紹介してまいります。
ご自身の任意保険会社が示談代行を行ってくれないか確認する
ご自身が任意保険に加入している場合は、過失割合が0でない限り、保険会社の担当者が示談代行を行ってくれます。
あなたに一定の過失割合があるということは、形の上では、保険会社が加害者に対して賠償金を支払う義務を負うということになり、示談交渉につき対応しなければならないからです。
もっとも、この方法を取ることができるのは、あなたが自動車を運転中に交通事故に遭ったときであって、歩行者中や自転車運転中に交通事故に遭った際には取ることはできません。
ご自身の任意保険などに弁護士費用特約を付けていないかどうか確認する
過失割合が0の場合は、ご自身の保険会社は示談交渉を代行することができません。
過失割合が0ということは、保険会社は加害者に対して賠償金を支払う義務を負いません。
そして、この場合、あなたが賠償金の支払いを求めて加害者と示談交渉することは、保険会社から見れば契約外の「他人の事務」ということになり、法律上、弁護士しか対応することができない決まりになっているからです。
もっとも、弁護士に対応を依頼するにしても費用面が気になる方もおられるでしょう。
その場合は、ご自身が加入している自動車保険や火災保険、傷害保険などに弁護士費用特約を付けていないかどうか確認してみましょう。
弁護士費用特約を付けている場合は、実質的な負担なしで、弁護士に示談交渉等を依頼できます。
また、歩行者中、自転車運転中に交通事故に遭った場合でも使える可能性がありますのでぜひ確認してみましょう。
まとめ
交通事故では加害者と直接示談交渉するのは避けましょう。
お互いが感情的となり話がこじれ、容易に解決できた話までも却って解決を難しくしてしまうおそれがあります。
必ず弁護士などを間に挟んで話し合いを進めていくようにしましょう。
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