誰しも前科は消えて欲しい、消し去りたいと思うものです。また、一度前科がついてしまうと、「他人が調べることができるのではないか」と不安になる方もおられると思います。
そこで、この記事では、
- 一定期間が経過すると前科は消えるのか?
- 前科の効力(刑の言渡しの効力)の消滅とは具体的にはどんなことを意味するのか?
- 一般人が前科を調べることはできるのか?
という疑問に対して、弁護士が詳しく解説してまいります。
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目次
前科は消える?~前科の効力の消滅との違い
前科とは|前歴との違いや前科が今後の生活に与える影響を徹底解説に詳しく書かれていますが、前科とは、疑いをかけられている罪について起訴され刑事裁判で有罪とされ、その裁判が確定したことで「あなたはその罪の犯人です」と認められた証のことをいいます。
前科がつくと、
- 一定の資格の取得ができない、取り消される、資格に基づく業務が停止される
- 就職活動時の履歴書の賞罰欄に前科を書かないと経歴詐称になり得る
- 海外渡航が制限されることもある
- 新たに犯罪を犯した時に前科の有無が考量されて刑罰が重くなることがある
などの不利益が生じることもあるため、なんとかして前科を消したいと考える人もいることでしょう。
そこでここでは、前科は消えるのか、前科の効力が消滅するとは具体的にはどういうことなのか解説します。
⑴ 前科は消える?
一度ついた前科は生涯消えることはありません。
検察庁が保管している前科情報は、検察庁の犯歴係事務官が前科者の死亡したことを知ってから削除するよう法律で定められています(犯歴事務規定18条)。つまり、前科者が死ぬまで一生、検察庁のデータベースから前科情報が消えることはありません。
⑵ 前科の効力の消滅とは?
他方で、一定期間が経過すると、前科そのものは消えませんが、前科の「効力」が消滅することがあります。なお、前科の効力が消滅するとは、正確には「刑の(言渡しの)効力が消滅する」といいます。
① 前科の効力とは?
たとえば、免許・資格を必要とする職では一定の刑以上の前科がつくと欠格事由にあたり、当然にその職に就けない(当然に職に就けなくなる欠格事由のことを絶対的欠格事由といいます)、あるいは就けなくなることがあります(絶対的欠格事由に対して任意的欠格事由といいます)。
当然に就けない職として、たとえば弁護士があります。弁護士については弁護士法という法律の7条に欠格事由の規定が設けられています。
(弁護士の欠格事由)
第七条 次に掲げる者は、第四条、第五条及び前条の規定にかかわらず、弁護士となる資格を有しない。
一 禁錮以上の刑に処せられた者二~四号 略
「禁錮以上」とは禁錮、懲役、死刑を意味します。「処せられた」とは前科がついたことを意味します。つまり、禁錮以上の刑の前科を有すると弁護士資格を取得できず、弁護士の職に就けないのです。
また、欠格事由にあたると就けなくなる可能性のある職として、たとえば、医師、看護師があります。医師については医師法という法律の4条に、看護師については保健師助産師看護師法という法律の9条に欠格事由の規定が設けられています。
第四条 次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。
一号~二号 略
三 罰金以上の刑に処せられた者
四号 略
第九条 次の各号のいずれかに該当する者には、前二条の規定による免許(以下「免許」という。)を与えないことがある。
一 罰金以上の刑に処せられた者
二号~四号 略
医師、看護師については、罰金以上の刑の前科を有すると医師免許、看護師免許を取得できない可能性があるのです。
② 前科の効力が消滅するとどうなる?
では、前科の効力が消滅するとどうなるかといえば、免許・資格との関係でいうと、免許・資格を必要とする職に就けるようになります。
つまり、前科の効力が消滅すると、弁護士法上の「禁錮以上の刑に処せられた者」ではないことになります。また、医師法上、保健師助産師看護師法上の「罰金以上の刑に処せられた者」ではないことになります。
③ 前科の効力が消滅するまでの期間は?
そこで、気になるのがいつ前科の効力が消滅するのか、ということではないでしょうか?前科の効力が消滅するまでの期間は実刑の場合と執行猶予の場合で異なります。
ア 実刑の場合(刑法34条の2)
実刑の場合、前科の効力が消滅するまでの期間は、以下の通りです。
- 禁錮以上の刑(死刑、懲役、禁錮)・・・10年
- 罰金以下の刑(罰金、拘留、科料)・・・5年
※懲役、禁錮の長短、罰金の多寡は関係なし。
もっとも、上記の期間、再犯して罰金以上の刑に処せられていないことが条件です。
イ 執行猶予の場合の前科の効力の消滅期間(27条)
執行猶予の場合、執行猶予期間が経過すると前科の効力が消滅します。執行猶予期間は1年から5年の範囲内で裁判官が決めます。たとえば、判決で裁判官から4年間執行猶予の言渡しを受けた場合は、その裁判の確定の日から4年が経過した後、前科の効力が消滅します。
前科の効力が消滅するまでの期間~ケース別
ここでは、ケース別に前科の効力が消滅するまでの期間をみていきたいと思います。
⑴ 略式起訴された場合~5年
略式起訴とは略式裁判を開くための起訴です。略式裁判とは検察官が裁判所に提出した書面のみの審理に基づく裁判のことです。略式裁判では「100万円以下の罰金又は科料」までしか科すことができません。したがって、略式起訴、略式裁判を受け前科がついた場合、前科の効力が消滅するまでの期間は5年です。
なお、略式起訴、略式裁判となり得る罪は、以下のとおり①罰則に罰金、科料しか設けられていない罪、あるいは②罰金、科料が選択刑として設けられている罪です。
① 罰則に罰金、科料しか設けられていない罪(主なもの)
罪名 | 罰則 |
---|---|
過失傷害罪(刑法209条1項) | 30万円以下の罰金又は科料 |
軽犯罪法1条1号から34号までの罪 | 拘留又は科料 |
② 罰則に罰金、科料が選択刑として設けられている罪(主なもの)
罪名 | 罰則 |
---|---|
過失運転致傷罪(交通事故) | 7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金 |
暴行罪 | 2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料 |
窃盗罪 | 10年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
盗撮 | 1年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
痴漢 | 2年以下の懲役又は100万円以下の罰金 |
⑵ 交通違反で検挙された場合~10年又は5年
交通違反といっても酒気帯び・酒酔い運転、無免許運転、信号無視(看過)、スピード違反など様々あります。いずれの罪にも懲役、罰金の罰則が設けられていますから、前科の効力が消滅するまでの期間は、懲役を科された場合は10年、罰金を受けた場合は5年です。
なお、酒気帯び運転、酒酔い運転、無免許運転は交通3悪と呼ばれ、刑事手続が適用され、裁判で有罪とされば懲役、罰金の刑罰を科されます。他方、信号無視、スピード違反など交通違反の中でも比較的軽微な違反は、刑事手続とは異なる交通反則通告制度が適用されることがあります。その場合、検挙した警察官から通称、青切符と呼ばれる書面の交付を受け、その書面に記載された反則金を納付することによって手続が刑事手続に移行することなく終了します。この場合、前科はつきません。反則金は罰金などの刑罰と異なるからです。
⑶ 万引きで検挙された場合~10年又は5年
万引きは窃盗罪にあたります。
そして、窃盗罪の罰則は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」ですから、懲役を科された場合の前科の効力の消滅期間は10年、罰金を科された場合は5年となります。
前科を調べることはできる?
前科・前歴は裁判所の記録,警察・検察などの捜査機関の記録,本籍のある市区町村の犯罪人名簿に記載されています。しかしこれらの記録は、裁判所が量刑判断の資料とする場合や、捜査機関が犯罪の疑いのある者について調べる場合などに照会されるものです。
いずれも高度に秘匿性が高い個人情報として保管されていますので一般人がこれらの情報にアクセスすることは不可能です。一般人が調べられるとすれば、マスコミ報道が掲載された新聞やネットのニュースサイト、それらの情報が転載された掲示板等、事情を知る者が流布した噂、興信所による関係者への聞き込み調査といったものに限られます。
詳しくは、他人の前科・犯罪歴を調べる4つの方法【公的機関からは不可能】を参考にしてください。
恩赦で前科は消える?
恩赦とは、一定の基準を満たす方に対して、有罪判決を無効にする(大赦)、確定した刑の重さを軽くする(減軽)、制限された資格を回復する(復権)、判決の言渡しの効力を失わせる(特赦)、刑の執行を免除することをいいます。
このうち、令和元年に実施された恩赦は復権と刑の執行の免除でした。もっとも、復権の場合も刑の執行の免除の場合も一度ついた前科を消す効果まではありません。
まとめ
一度ついて前科が消えることはありません。しかし、前科を有していたとしても服役を終える、罰金の納付が終わる、前科の効力が消滅することで、前科がついてない場合と同様の生活を送ることができます。また、一般人が前科の有無を調べることはできませんから、前科がついたからといって必要以上に周囲に目を気にして生活する必要はありません。
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