強制わいせつ罪は個人の性的自由や性的羞恥心を害する重大な犯罪であるため、有罪になった場合にはたして執行猶予がつくことがあるのか、疑問を抱えている方もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、刑事事件に強い弁護士がこの疑問を解消していきます。
執行猶予の量刑になる可能性を高める事情や、執行猶予を得るためにすべきことについても解説していますので最後まで読んでみて下さい。
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目次
強制わいせつは懲役何年?
強制わいせつ罪の法定刑(法律で定められている刑罰の範囲)は「6月以上10年以下の懲役」です。懲役刑のみが規定されており、罰金刑は規定されていません。強制わいせつ罪で起訴され、裁判で有罪と認定された場合は、基本的には上記の刑期の範囲内で判決を言い渡されます。
なお、強制わいせつを行った機会に被害者に怪我を負わせた場合は強制わいせつ致傷罪、被害者を死亡させた場合は強制わいせつ致死罪が適用されます。強制わいせつ致傷罪、強制わいせつ致死罪の法定刑は「無期又は3年以上の懲役」です。有期懲役の刑期の上限は20年ですから「3年以上の懲役」とは「3年以上20年以下の懲役」という意味となります。
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強制わいせつは懲役実刑?執行猶予がつくことは?
強制わいせつ罪で起訴され裁判で有罪の認定を受けても、必ず実刑となるわけではありません。判決を受ける時点で執行猶予の条件を満たしていれば、実刑ではなく執行猶予付きの判決を受けることができます。そこで、以下では、執行猶予付きの判決を受けるための条件について解説していきたいと思います。
執行猶予がつく条件
執行猶予付き判決を受けるための条件は次のとおりです。なお、執行猶予には全部執行猶予と一部執行猶予があり、全部執行猶予にはさらに最初の執行猶予と再度の執行猶予があります。それぞれ条件が異なりますが、これから解説するのは最初の執行猶予の条件である点にご注意ください。
3年以下の懲役の判決の言い渡しを受けること
まず、判決で言い渡される懲役の刑期が3年以下であることが条件です。
前述のとおり、強制わいせつ罪の法定刑は6月以上10年以下の懲役ですから、強制わいせつ罪で3年以下の懲役の判決を受ける可能性はあるということになります。
なお、強制わいせつ致傷罪、強制わいせつ致死罪の懲役刑の下限は3年ですから、両罪でも執行猶予付きの判決を受ける可能性はあるといえます。もっとも、被害者に怪我を負わせている点、被害者を死亡させている点で強制わいせつ罪よりはるかに情状が悪いですから、強制わいせつ罪に比べると執行猶予付き判決を受ける可能性は格段に低くなります(特に、致死罪の場合)。
判決より前に禁錮以上の刑に処せられたことがないこと
次に、判決より前に禁錮以上の刑に処せられたことがないことが条件です。
禁錮以上の刑とは禁錮、懲役、死刑のことです。罰金、科料、拘留は含まれません。そのため、判決を受ける時点で罰金、科料、拘留の前科をもっていたとしても執行猶予付き判決を受けることができます。
また、判決より前に禁錮以上の執行猶予付き判決を受けたことがある場合でも、判決を受ける時点で執行猶予期間が経過している場合は「禁錮以上の刑に処せられたことがない」ことになり、執行猶予付き判決を受けることができます。
さらに、判決より前に禁錮以上の実刑判決を受けたことがあっても、判決時点で刑の執行が終わった日(刑期が満了した日)から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない方も執行猶予を獲得することができます。
有利な情状があること
最後に、被告人に執行猶予付き判決を言い渡すだけの有利な情状があることが必要です。情状は犯罪そのものに関する犯情と犯情以外の一般情状にわけられます。以下で解説します。
執行猶予の量刑の可能性を高める事情(情状)
裁判官が判決で言い渡す刑罰を決めることを「量刑」といいます。そして、刑期はどれくらにするか、懲役実刑にするか執行猶予にするか、といった量刑判断において考慮されるのが「情状」です。
では、強制わいせつ事件において、執行猶予の量刑になる可能性を高める情状にはどのようなものがあるのか。以下では、「情状」を犯情と一般情状にわけて解説します。
犯情とは?
まず、犯情には、などがあります。
- 犯行の計画性
- 犯行態様
- 結果の有無及びその程度
犯行の計画性とは、犯行が計画的か偶発的かということで、偶発的な犯行だった場合は計画的な犯行だった場合に比べると執行猶予となる可能性はあるといえます。
犯行態様とは、犯行の手段や実際の犯行がどれほど悪質だったかということです。たとえば、暴行やわいせつ行為の回数が多い場合よりも少ない場合の方が執行猶予となる可能性はあるといえます。
結果の有無及びその程度とは、犯行の結果、被害者に与えた損害の有無及びその程度のことです。たとえば、わいせつな行為の結果、被害者に精神的ダメージを与え、人と接すること、学校に行くこと、仕事に行くことを困難にしたなどという場合は執行猶予となることが難しくなります。
一般情状とは?
次に、一般情状には、
- 被告人の反省の有無
- 被害弁償・示談成立の有無
- 被害者の処罰感情
- 再犯可能性の有無
- 更正可能性の有無
などがあります。
被告人の反省の有無とは、罪を認めて反省の態度を示しているか否認を貫いているかということです。否認を貫いている場合よりも、当初から罪を認め反省の態度を示している方が執行猶予となる可能性は高くなります。
被害弁償・示談成立の有無とは、被害者に対して被害弁償し、かつ示談を成立させたかどうかです。被害者に被害弁償し、かつ示談を成立させた方が執行猶予となる可能性は格段に高くなります。
被害者の処罰感情とは、被害者の被告人に対する処罰感情が厳しいのか緩和されているのかということです。犯行直後よりも処罰感情が緩和されている場合は執行猶予となる可能性があります。
再犯可能性とは、被告人の前科・前歴、性癖、性的嗜好などから今後も再犯に及ぶ可能性があるかどうかということです。再犯可能性が低いと判断される場合は執行猶予となる可能性もあります。
更正可能性とは、被告人の更生の意欲、家族など周囲のサポート体制の有無などから、被告人が更正していけるかどうかということです。更正可能性があると判断される場合は執行猶予となる可能性が高くなります。
強制わいせつで執行猶予がつく確率は?
令和3年度の犯罪白書によると、令和2年(2020年)に第一審の刑事裁判で全部執行猶予付き判決を受けた人の率は約63.1%ということになります。
また、強制わいせつ事件の執行猶予の確率だけでいえば、「平成27年版 犯罪白書第6編性犯罪者の実態と再犯防止 科刑状況」のデータによると、強制わいせつ事件では64.7%の率で執行猶予がついています。
もっとも、前述のとおり、強制わいせつ罪で執行猶予付き判決を受けるかどうかは、執行猶予の条件をクリアするかどうかにかかっています。また、条件をクリアするかどうかは個別の事情により異なってきますので、上記データはあくまで参考程度にとどめておきましょう。
強制わいせつで執行猶予を獲得するには何をすべき?
強制わいせつ罪で執行猶予を獲得するには、判決までに被告人にとって有利な情状をどれだけ作ることができるかにかかっています。そこで、以下では、強制わいせつ罪で執行猶予を獲得するために、判決までにやるべきことをご紹介していきます。
被害弁償、示談を成立させる
前述のとおり、被害弁償と示談の成立は情状に大きな影響を与えますから、まずは被害者に対して被害弁償し、示談を成立させることが何より先決です。なお、被害弁償と示談交渉は弁護士に任せましょう。
家族などの周囲の協力を得る
強制わいせつ罪をはじめとする性犯罪は再犯率が比較的高い犯罪です。そのため、裁判では更正可能性も重要視されます。更正可能性があると判断されるためには、まずは本人が構成の意欲を示し、家族などの適切な監督者に協力を得て、裁判で情状証人として出廷してもらうことなどが必要です。
治療・カウンセリングを受ける
性依存症の傾向が顕著な場合は、専門機関で性治療やカウンセリングを受ける必要があります。身柄を拘束されている場合は、専門機関への入通院のため、釈放に向けた活動も必要です。
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